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笹野神社

sasano




  祭  神:高龗神
  説  明:薊岳登山口に鎮座する神社。
       薊岳の標高は、1406M。登山道の途中にある「大鏡池」にも、不思議な伝
       説が残る。
  住  所:奈良県吉野郡東吉野村麦谷32
  電話番号:
  ひとこと:この神社については資料らしい資料を見つけることができませんでした。
       なのになぜ紹介するか。
       どうも、「東吉野の伝説」において、この山と神社は重要な意味を持つと考え
       るからです。

       では、東吉野村教育委員会発行の、「東吉野の民話」から、2つ紹介しましょ
       う。

      「笹野神社の御神体
       昔、大又の人が盆には何べんも、神社の境内で盆踊りをしてましたんや。今と
       違て、えらいにぎやかに太鼓を打ち鳴らして、夜が更けるんも忘れて、盛大に
       踊ってました。そしたら、その踊りとはやしにのって、大鏡山の方から、大蛇
       が火を吹いて飛んで来て、本社の中へと入ったっ言う話が残ってます。今でも
       笹野神社の御神体は長蛇やと言うてますわ」

      「大鏡池の由来
       大又のなあ、陰地っ言う所から約一時間程山へ登った所に古池って言う土地の
       名前の所があんねんな。で、それからまた、四十分程登った所に大鏡の池言う
       のがあって。で、昔は大鏡の池いうのは無かったんです。古池っ言うのはかな
       り大きな池で、土地のまあ大神が舟遊びしたと。大きな池やと。ほんで、その
       陰地に与吉っていう狩師がおりましてん。で、毎日毎日山へ行って、仕事しと
       ったわけですわ。その当時は池の周辺あたり一帯は原生林で、あまり人のよう
       け入らん所らしかった。ある日のことね、その、一日駈けずり周ってんけど、
       何にも獲物が無しに、その古池のほとりまで帰って来たんだそうです。そうす
       ると、その古池の薄の陰に、雌鹿が足を冷やしていた。それを狙うて撃ったと。
       で、確かに手応えがあったと思うのに、雌鹿がおらんのだそうです。ほで、ま
       あ日が暮れて来るし、やむなくあきらめて帰ったんだそうです。ところがやな
       あ、その晩与吉っていう人がものすごい発熱したらしい。それでその発熱のう
       わ言に、
      『表で子どもが泣いとる、泣いとる。だから、あの子どもを早う中に入れたれ』
       と。まあ、そう言って盛んにうわ言、言ったらしいんですわ。ところが、家の
       者が外へ出て見ても、何にもいよらへん。ただ、当時その下に田圃があったん
       だそうですわ。家の人が中から外へ出てみたらね、田圃の中をバチャバチャと
       音して何かが逃げたと。でまあ、それが撃たれた雌鹿の子どもらしいですわ。
       それから、与吉っていう人が、その晩で治ってんけども、その後、狩師も一切
       やめてしもたんだそうです。それからしばらくすると、その古池の水がちょっ
       と減りちょっと減りして、干し上がってしもた。そいでその、知らん間に大鏡
       の池に水ができていた。昔は、古池は水の源であってやな、陰地やら、まあ飲
       料水にもしとったし、水田にも使うとったさけ、水の神水の神て、水の神さん
       です。古池が上がった大鏡の池は、主が水の神さんやと、大又の下みて、水の
       神さんとして祀ってあるんだそうです。毎年毎年、土地の人が集まって、踊り
       をしとったんだそうです。そうすると、大又の、明神平からね、火の玉が飛ん
       で着て、その祠の中に入ったっていうんです。お宮さんの祠の中へ。それで、
       そのお宮さんを明神さんにしたんだそうです。それはそれ、今残っとる大又の
       明神平さんやと。まあこういう話なんですけどな」

       ちょっと説明すると、二つ目の話しにある「明神さん」ってのが、この笹野神
       社のことらしいです。
       また、大鏡山とは大鏡池を山頂とするようで、地図を見ると、尾根道になって
       いるのがよくわかります。  

       というところで、話しを整理すると、
       ・古池という神の遊ぶ池があった
       ・ある日、どういう意味があるかはわからないが、古池が枯れ、大鏡の池がで
        きた。
       ・大鏡の池は水の神として大事にされており、盆踊りが盛んに行われた。
       ・ある盆踊りの日、明神岳か大鏡山かはわからないが、火(火を吹く蛇)が飛
        んできた。
       ・今笹野神社(明神さん)で祀られているのは、この蛇神様である。

       なんとも興味深くはありませんか?

       この近辺の地名も、なんだか興味を惹かれるものがあります。

       狭戸・飛石・大豆生・麦谷・陰地
       何がどう・・・ということはできないんですが、漠然と・・・。
       漠然と、何かが惹かれます。

       詳しく引用することはしませんが、同じ「東吉野の民話」の中に、「伯母が峯」
       の妖怪についての伝説があります。
       12月20日、この峯を通ると、一本足の怪物に殺される、と。

      「火」「笹」「蛇」「陰」「一本足」
       これらすべて、「製鉄」を思い起こさせるキーワードです。

      「火」は言うまでもないでしょう。

      「笹」については、「黄金と百足」の中で若尾五雄さんが論考されています。つ
       まり、「ささら」と関係が深く、また、鉄鉱の山には笹がおく生いると。

      「蛇」については、諸説ありますが、例えば八俣の大蛇は溶鉄を怪物と見たもの
       だとする説があります。

      「陰」は、「おん」。鬼の語源がここにあるという説があるんですね。
       詳述しませんが、鬼と製鉄の民は関係が深いとされています。

      「一本足」についてもこれまた諸説あります。
       柳田国男翁は、製鉄と一つ目について書いておられますが、同じように一本足
       もまた、製鉄と関係が深そうです。

       改めて「製鉄」をキーワードにして、これらの伝承を見てみると、古池から大
       鏡池への移動と、明神平(大鏡)から、現在の笹野神社への移動が見てとれま
       すね。

       何が移動したんでしょうか。

       製鉄の技術でしょうか。
       それとも、もっと不思議で大切なもの?

       この神社の外観は不思議です。
       祠の周囲を石垣で囲ってあるのは、土が崩れてこないためだと理解できます。
       しかしながら、この伝承を読んだ後に、この姿を見ると・・・。

      「もう逃がさない」
       そういう意志を・・・ほんの少し、感じてしまうのです。 

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