祭 神:大山積大神 説 明:境内案内板を転載します。 「御祭神大山積大神は、天照大神の兄神で山の神々の親神に当たり(古事記・日本 書紀)天孫瓊々杵尊の皇妃となられた木花開耶姫命の父神にあたる日本民族の祖 神として、和多志大神(伊豫国風土記)と申し上げる。 海上安全の守護神である。 地神・海神兼備の大霊神として日本の国土全体を守護し給う神であるところから 古代より日本総鎮守と尊称され朝廷を初め国民の崇敬は各時代を通して篤く中世 は四社詣、五社詣の中心となり、平安時代既に市が立ち現在に続いている。 御分社は全国に10,000余社祀られ、延喜式名神大社に列せられ伊予国一の 宮に定められた。 明治以降は国弊大社に列せられ四国で唯一の大社としして尊崇されている。」 住 所:愛媛県越智郡大三島町宮浦 電話番号: ひとこと:大山祇神社略誌も編纂されていますが、ここでは、相も変らぬ戯言でございます。 私が面白いと思うのは、由緒中の、 「天孫瓊々杵尊の皇妃となられた木花開耶姫命の父神にあたる日本民族の祖神」 という文言です。 つまり、この神社の御祭神は、皇室における「女系の祖」である、というわけ。 というのも、2006年現在、日本は、「女系天皇を認めるかどうか」が、大き な議題の一つとなっているんですね。 女系というのは、つまり、代々、母の血を継いでいく・・・というわけですが、 具体的に言えば、子供は母の家柄を相続するということです。 現代日本においては、つまり、「男性が女性の家に養子に入る」というパターン。 代々これが続いているのが、「女系」。。。といえば、ちょっとくだけすぎでし ょうか??? でも、古代日本において、それは珍しいことじゃありませんでした。 子供は母親のお腹から生まれますから、それは、割りと自然なことだったのかも しれません。 ま・・・、ぶっちゃけて言えば、「誰の子供だかわかんない」ということが頻繁 に起きた場合、女系の方が都合が良い、というより、男系だったりしたら、子供 が困っちゃうわけです。 そして、もう一つ。 もし、男系を重んじていた場合、「母」が、秘密のうちに誰かと通じ、その子を 産んだ場合・・・。 その系統は、「全く違うもの」になっちゃうんですね〜〜〜。 いや〜〜〜、えらいこっちゃ。 その点、母の系統を引き継いでいくのならば、少なくとも、母の系統の血を受け 継ぐことは間違いありません。 これについて、記紀には興味深い記述があります。 それは、天孫・瓊々杵尊が、木花開耶姫が孕んだ子供の父親を疑った、というこ とです。 その部分、古事記から引用してみましょう。 「かくして後に木の花の佐久夜比売が参り出て申すには、『わたしは妊娠しまして、 今子を産む時になりました。これは天の神の御子ですから、勝手にお生み申し上 ぐべきではございません。そこでこの事を申し上げます』と申されました。そこ で命が仰せになって言うには、『佐久夜比売よ、一夜ではらんだと言うが、国の 神の子ではないか』と仰せになったから、『わたしのはらんでいる子が国の神の 子ならば、生む時に無事でないでしょう。もし天の神の御子でありましたら、無 事でありましょう』と申して、戸口の無い大きな家を作ってその家の中におはい りなり、粘土ですっかり塗りふさいで、お生みになる時にあたってその家に火を つけてお生みになりました。その火が真っ盛りに燃える時にお生まれになった御 子は火須勢理の命、次にお生まれになった御子は火遠理の命、またの名は天つ日 高日子穂穂出見の命でございます。」 面白いのは三点あります。 サクヤヒメ(開耶姫・佐久夜比売)は、生まれるという時になって初めて夫にそ のことを告白していること。 そして、その時点で、夫・瓊々杵尊は、「一夜で孕んだ」と言っていること。 最後に、瓊々杵尊は、「国の神の子ではないのか?」という疑念を持っていると いうことです。 つまりですね・・・。 下世話な話しですが、開耶姫と瓊々杵尊は、一夜しか契っていないのだというこ とになるわけです。 んまっ、新婚なのに、なぜなぜ?? 理由は、察しがつくでしょう。 なにしろ、出産間際に初めて妻が夫に、「勝手に生むべきじゃないから告白しま す」と申し出ているんです。 夫は、「他の男(国の神)の子じゃないのか?」と言っているわけです。 二人の仲が親密であろうはずがない・・・そう思いませんか? 開耶姫は、身の潔白を証明するために、炎の中で出産します。 これは、かなり勇気のいることでしょう。 ・・・が、ですね・・・。 炎の中で出産することと、生まれてくる子供が間違いなく天孫の子供であるとい うことに、なんの因果関係が????? どうにもこうにも、「苦し紛れ」という言葉が浮かんできてしまいやしませんか? ただ、なぜか「父を疑われた妊婦」は、炎の中で出産するようです。 垂仁天皇の妃であった狭穂姫もまた、兵火の中で出産しています。 そして、彼女は、 「この子をあなたの子供だと思ってくださるならば、どうぞあなたが育ててくださ い」 と、生まれた子供を天皇に託しています。 つまり、御子が天皇の子供でないとする意見があったということでしょう。 そして、火中で出産した女性は、結局「勝ち」ます。 狭穂姫の忘れ形見である、ホムチワケは、大人になるまで口をきくことさえでき ませんでしたが、父である垂仁天皇は、その子を慈しみ、愛し、大切に育てまし た。 開耶姫の御子である穂穂出見命に至っては、正当な「皇太子」になっています。 ですから、火中で出産するということと、正当な父の子供であるということは、 呪術的な意味でかなんでかはわかりませんが、しっかりとした因果関係があるの かもしれません。 しかし、どうも・・・。 インパクトも勇気もある行動によって、認め難いことを無理やり認めさせた・・ という邪推は、消えないんですよね・・・。 なんにせよ、開耶姫は、「勝ち」ました。 その後の、「日の皇子」の血筋に、瓊々杵尊・・・ひいては天照大神の血が流れ ているかは定かでありませんが、開耶姫・・・大山積命の血が流れていることは、 明白な事実なのですから。 さてさて。 この大山積命。 伊予国風土記では、「和多志の大神」と呼ばれています。 この神社が、大三島という島に鎮座していることから想像すると、 「和多志」とは、「渡し」。 つまり、渡海の安全を守る神様だったということでしょう。 しかし、「渡す」という言葉に、なんとも意味深なものを感じてしまうのは、開 耶姫と瓊々杵尊の物語を知っているからでしょうか。 開耶姫を瓊々杵尊に「渡し」て、その後、日の血筋に自らの血を永遠に「渡し」 たのですから。 大山積命が男性か女性かはわかりません。 山の神ですから、女性だと見る意見をよく聞くような気がしますが、統計をとっ たことがないので、わかりません。 しかし・・・。 巧妙に、自分の血を日の血筋に渡し、送り込んだそのことから、何か、非常に強 く賢い女の意志を見てしまうのは・・・私だけでしょうか?