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杉桙別命神社

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  祭  神:杉桙別命
  説  明:境内案内板を転記します。
      「杉桙別命神社の大クス
       杉桙別命神社(来宮神社)は、平安時代につくられた『延喜式』という
       書物の中にも記されている古く格式のある神社である。
       このクスの木は、県下でも有数の巨木として知られている。昭和十一年
       国の天然記念物に指定された。目通り周十四メートル、高さ二十四メー
       トルあり、樹齢は千年以上といわれている。通称『来の宮様の大クス』
       として古来より御神木として崇められてきた。江戸時代から明治時代中
       頃まで『河津郷七抱七楠』とよばれていた大クスの中で、現存する唯一
       の木である。
       当社は『鳥精進、酒精進』の行事があることでも有名である。氏子は毎
       年十二月十八日より二十三日まで禁酒し、鳥肉、卵を食べない。その由
       来は、祭神杉桙別命が酒に酔って寝ていたところに野火が起き、火に囲
       まれてしまった。そこへ小鳥たちが飛来し、羽に水をふくませ火を消し、
       野火から命を守ったという。この由来にもとづく行事は、現在でも、町
       内の氏子はもとより、町外の氏子および多数の崇敬者に守り伝えられて
       いる。」
  住  所:静岡県賀茂郡河津町田中154
  電話番号:
  ひとこと:ご祭神の杉桙別命とは初めて耳にするお名前です。
       他に祭られている神社はないかな〜と、探してみると、二社。

       静岡県賀茂郡の来宮神社。
       静岡県富士市の木之宮神社。

       この、杉桙別命神社も、通称は、河津来宮神社。

       つまり、このご祭神は、静岡県の、「きのみやじんじゃ」と称される神
       社にお祭されているということのようです。

      「杉」に「きのみや」
       この御祭神は、樹木と関係が深いということでしょうか。 

       神社新報社刊の「日本神名辞典」によると、
      「杉桙別命(すぎほこわけのみこと)
       伊豆国賀茂郡式内社杉桙別命がある。大山津見神の裔神であると推定さ
       れる」

       と説明されています。

       山の神の末裔が樹木の神様というのは、不自然ではないような気もしま
       すね。

       何よりも面白いのは、鳥精進・酒精進のお話です。

      「鶏を食べない」
       地方があるという話しは、たまに聞きます。

       それは大体、「鶏が鳴いたので朝が来たと勘違いした」ことが原因とさ
       れているようです。

       菅原道真公が叔母である覚寿尼と最後の一夜を過ごした朝、鶏がいつも
       より早く鳴いたので、彼らは通常より早く別れなければならなかった。
       などというマイナスイメージのものもあれば、

       鶏が鳴いたので鬼が去った。
       というプラスイメージのものもあります。

       その結果、その地域では、鶏を飼わない=鶏を食べなくなった。
       その結果、その地域では、鶏を殺さない=鶏を食べなくなった。

       という過程で、鶏を食べられなくなった、という話しならば、今までい
       くつか聞いていました。

       が、火事から神を救ったから・・・というのは、初耳。

       それにしても、野火から神様を救おうと、羽に水を含ませて・・・とい
       うのが現実的かどうかというと、文鳥のママである私には、疑問です。

       つぅのもですね。
       鳥の羽は水を弾くんです。
       水鳥の羽が水を含んだりしたら、沈んじゃいますよね?

       小鳥の羽が水を含んだりしたら、雨が降ったら、すぐに飛べなくなりま
       す。
       健康体の鳥の場合、肥満はありえません。
       少しでも体重を軽く保つため、鳥の骨は空洞になっています。

      「少しでも空気に浮きやすくするために」
       小鳥の体はうまく作られています。

       水の比重=1ってのは、自然界では、結構高いもんなんじゃないでしょ
       うか。
       そうすると、羽は水を弾いて弾いてはじきまくるはず!・・・なんです。


       つまりこの話しは、全くの「寓話」ということ。

       結局、この物語が伝えたかったのは、

       ご祭神は酒で失敗したということ。
       ご祭神が野火を恐れること。
       ご祭神と小鳥が良い関係であるということ。

       の3点に絞れるかもしれません。

       樹木の神様が、野火を畏れること、小鳥と良い関係であるということは、
       まったく不思議ではありません。

       が、ここに酒が入ってくるというのは??

       貧困は私の発想では、杉と酒というと、
      「酒樽」
       しか思い浮かびません。

       でも、酒樽が酒を「呑む」ことを嫌うというのは、変ですよね。

       ですから、もっと他の寓意を秘めているのかもしれません。

       例えば、この地域に、「酒の神様」がいらっしゃったとか。

       樹木の神と酒の神が一緒に何かをしている時に火災にあったのだとか。

       考えてみれば、そもそもこの神話において、

      「酒」は、遭難の原因です。
      「鳥」は、難から逃れる助けをしたものです。

       相反する両者を同じように、
      「断つ」
       というのは、少ししっくりしませんからね。

       さて、では、酒の神様と一緒だったときに野火に遭ったのだとしましょ
       う。

       それでは、その酒の神とはどなたでしょう?

       ここは静岡。
       そして、杉桙別命は、大山祇命の末裔。

       大山祇命の娘に、木花開耶姫命がおられます。
       彼女は絶世の美女であり、酒の神でもあられました。

       ・・・とはいえ、杉桙別命の相手が開耶姫命だと思っているわけではな
       いのですけれども。

       開耶姫の系列の女神・・・。

       その女神とデートの途中だったのではないのかな、などと思うのです。

       その方が絵も美しいですよね。
       
       ****************************
       後記
       山火事が起きたとき、鳥たちが羽根に水を含ませて飛来し、火を消し止
       める話は、世界的に存在するようです。
       有名なのは、南米アンデスに伝わるハチドリの一滴でしょう。
       
       山火事が起きた際、大きな鳥たちがただただ傍観する中、小さなハチド
       リは、羽根に水を含ませては火に注ぎ、なんとか火を消そうとします。
      「お前みたいな小さな鳥に何ができる」
       あざ笑う大きな鳥に、
      「私は、私ができる精一杯のことをしているだけなのです」
       そうハチドリは応えたと言います。
       
       それを聞いた鳥たちはハッと我に返り、みなで火を消すことができた……
       ならいいんですが、多くの場合、説話はここで終わっています。
       
       このお話しは、ただの「良い話」ではなく、もっとも小さな者が、もっと
       も勇敢であるというあるパターンを踏襲していることに気づくでしょう。
       
       たとえばミソサザイは鳥の世界では最小級の種ですが、なぜか世界中で
      「鳥の王」と考えられているんです。
       しかし、その理由が微妙に違う。
       ヨーロッパ圏では、「みそさざいの賢さ」が王である理由と説くのに対し
       て、海の民が勢力のあった場所では、「みそさざいは勇気と、その小ささ
       を活かして悪神を退治したから王なのである」と説明していることが多い
       ようです。
       
       グリム兄弟によれば、ドイツでミソサザイは「垣根の王様」というのだと
       か。
       グリム童話の「ミソサザイと熊」は、熊に「御殿(つまりは巣のこと)」
       をバカにされたミソサザイが熊に喧嘩を売ります。
       熊は森中の獣を集め、ミソサザイはすべての飛ぶ動物を集めて戦おうとす
       るのですが、獣の大将となった狐が、
      「私がしっぽを下げたら味方が負けたということだから、逃げろ」
       と言っているのを盗み聞き、スズメバチに狐を刺させるんですね。

       スズメバチの毒ってむっちゃくちゃ痛いそうですから、狐はしっぽを下して
       しまい、獣たちは散り散りに逃げてしまったという……つまりはインチキな
       んですが(笑)

       それでも熊はミソサザイを恐れ、土下座せんばかりに謝っています。

       つまり、ミソサザイは小さくても鳥類……いや、空を飛ぶ生き物すべての王
       様なんです。
       しかもそれは、ドイツだけのことではなく、ヨーロッパ全域のことだとか。
       
       そしてアイヌ神話では、ミソサザイはもっとも勇気のある鳥として登場しま
       す。
       ミソサザイは「トリシポッ」と呼ばれるカムイでした。

       人々やトリシポッが平和に暮らす森に、いつしか凶暴な熊がやってきて、人
       を喰らうようになりました。
       ……いわゆる、「荒ぶる神」ですね。

       そこで神々が集まって、なんとか熊を退治しようとするのですが、智恵者の
       ツルのカムイも、力の強いワシのカムイも、手も足も出ません。
       あげくのはてに、英雄神のサマイクルも、「ミソサザイよ、おまえは勇敢な
       んだから、頼むよ」などと頼ってくる始末。

       そこでミソサザイは、その小さな体を活かし、熊の耳に飛び込みます。
       そして神経や血管を食い破り、熊を苦しめたのでした。

       こうして12日の間、ミソサザイが熊を攻撃した後、サマイクルがやってきて、
       「後はわしがやろう」とおいしいとこどりをしたのです(笑)

       サマイクルは「ミソサザイはすごいやつだ。だから体の大きさで差別をして
       はならんよ」と、他の鳥神様を諭していますから、他の動物への戒めのために、
       ミソサザイを孤軍奮闘させたのかもしれませんが。
       
       この神社の伝承は、海の民の神話を受け継いでいるようですね。

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