採取地域:広島県引馬山 ひとこと: 原 典:耳袋 登場人物:稲生武太夫 相撲取 三本五郎左衛門 物 語:芸州引馬山には、三本五郎左衛門という妖怪が棲んでいました。 なんで妖怪がそんな人間くさい名前なのか?と不思議ですが、 なにしろ、聞いたことを淡々と書いてあるだけ、というのがウ リの、「耳袋」が原典なので、さっぱりわかりません。 ただ、「妖怪」と言われていても、現代の私達からみたら、 「幽霊」である場合もありますから、この五郎左衛門は、幽霊の 一種かもしれません。 七尺ほどの五輪に「地水火風空」と記してあり、そこに、この 幽霊が棲んでいた、とありますから、この五輪になにか、未練 でもあったのかもしれません。 ちなみに五輪というのは、五輪塔のことでしょうね。 「地水火風空」と刻んである、という表現がありますから。 小泉八雲の「怪談」に、「A Dead Secret」という短編があり ますが、これは、生前に出せずに箪笥の引き出しの裏に隠した 恋文が気がかりで成仏できなかった娘のお話です。 この娘の幽霊は、は毎晩箪笥の側にぼんやりと現れたと言いま す。 とすると、この五郎左衛門は、五輪に何か隠してあったのか? この塔の中を、誰か、覗いてみた人がいなかったのは、残念で すね。 さて、ここに、稲生武太夫という豪傑がおりました。 この人は、「今のような時代に怪異なんかあるわけない」と、 知り合いの相撲取と一緒に、この妖怪が出るといわれる場所で、 日がな、酒盛りをすることにしました。 「今の時代に怪異があるわけはない」とは、江戸時代から言われ てきたんですねぇ。 なのに、私達が生きている、この時代でもまだ、怪異を見る人 はいるんですから、怪異ってのは、なかなか滅びないようです。 さて、ところが、ないはずの怪異は、やはり起きたのでした。 まず、三日目の晩、いきなり相撲取が亡くなってしまいました。 しかたなく自宅に戻った、武太夫なのですが、今度はこの自宅 で、いくつも怪異が起き始めました。 下僕達が次々と辞めて行く中、ことの責任を一身に背負ってい る、武太夫は、全然気にとめず、あくびでもしそうな具合。 怪異は16日続きましたが、無視された妖怪はいい面の皮。 とうとう、 「気丈なやっちゃ。わしゃ、三本五郎左衛門だよ」 と名乗ったっきり、山へ帰ってしまったようです。 それ以降、怪異はありませんでした。 後に、武太夫は、 「参ったのは、屋敷の中にうんこを撒かれたことだよ。 臭いし、汚いし、あぁ、やだやだ」 と、語ったということです。 ここで、 「一番参ったのは、友達を取り殺されたことだ」 とならなかったということは、相撲取は、事故か病気で亡くなっ たんでしょうかね? 妖怪のせいで亡くなったわけじゃない。 もし、そうじゃなければ、この武太夫。 豪傑なわけじゃなく、単なる、はみだし者かも。 「盲人蛇に怖じず」 ってやつかも? そういう人に誘われて命を落とした相撲取の身になってみれば。 「恐ろしいのは、妖怪よりも人間」 になっちゃいますよねぇ?