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雷を捉える




  採取地域:奈良県高市郡雷丘
  ひとこと:
  原  典:日本霊異記
  登場人物:小師部栖軽 雄略天皇 雷
  物  語:雄略天皇の時代といいますから、5世紀のころ。
       小師部栖軽(ちいさこべのすがる)という力持ちがいました。

       力持ちで、気のいい男というのは、デリカシーにかける場合がある
       ように思うんですが、この小師部栖軽も、例外じゃありませんでし
       た。

       雄略天皇と皇后の寝所に、ずかずかと、
      「天皇さま〜〜」と、入り込んでしまったんです。

       雄略天皇は、コトの真っ最中。
       腹がたつよりも照れくさくて、折りしもバリバリと鳴っていた雷を
       指差し、

      「雷を捉えて参れ」

       まぁ、体よく、追っ払ったわけですね。

       あんまりスマートなやり方じゃないですけどね。

       焦ってたんだもん、大目に見てください。

       さて、こんな無理難題をおしつけられた栖軽。

      「どうしよう」
       と頭を抱えることもなく、
      「オ〜レっは、スガル〜、ガ〜キだいっしょう!!」
       と歌いだしそうな勢いで、意気揚々と雷が鳴っている天の下までや
       ってきました。

       どんな工夫があるんでしょうか?

       お、手をメガホンの形で構えました。
       そして、なんと、口に持っていきました。
       そして!!!

      「お〜〜い、雷よ。天皇さまが呼んでらっしゃるぞ〜」
      「いくら雷がえらくても、天皇さまの言うことは聞いてもらうぞ〜」

       おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい。
       それで雷が捕まえられりゃ世話ないって・・・。

       ところが。
       こんな芸のない方法で、雷は箱にとらわれてしまうんですね。

       小師部栖軽は、行き同様、元気いっぱい、天皇の元へ帰ります。

       ま〜さ〜か〜、本当に雷を連れて帰ってくると思っていなかった、
       雄略天皇、ぎらぎらぴかぴか光る雷を見て、腰を抜かしちゃいまし
       た。

      「かわいそうだから、天に返しておやり」

       この天皇は、ん〜、これまた、芸のない言い方ですが、びっくりし
       た後なので、許してください。

       小師部栖軽は、もちろん、そんなことに頓着しません。

      「はぁ〜い」と、雷を返してやりました。

       その後、小師部栖軽が亡くなった時、天皇は彼を懐かしんで、彼が
       雷を捉えてきた丘に墓を建て、墓碑には、
      「取雷栖軽之墓(雷を取りし、栖軽の墓)」と刻みました。
       こういう、気のいい大男は、結局は愛されるんですね。

       ところが、そんな万民に愛される栖軽を憎しみを込めて睨む二つの
       目がありました。

       そう!!
       小師部栖軽に捉えられた雷です。

      「ふっふっふ。にっくき栖軽も、土の下じゃぁ、オレさまを捕まえら
       れまい。へっへっへ」

       ん〜、卑怯なり、雷は小師部栖軽の墓に向け、まっさかさまに落ち
       てきました。

       しかし、それが、人間(?)の器の違いというものでしょうか。
       雷はあまりにも勢いよく、栖軽の墓に落ちたため、墓碑の木材を真
       っ二つに割ってしまい、ついでにその割れ目に挟まってしまい、身
       動きとれなくなってしまったのでした。

       これには雄略天皇も、「雷、恐るるに足らず」と思ったのでしょう。
      「放しておやり」
       と、逃してやりました。

       雷は、といえば、あまりのショックに、7昼夜、そこから動けませ
       んでした。

       雄略天皇は、墓碑を新しく建てさせ、
      「生之死之捕雷栖軽墓(生きても死にても雷を捕らえし栖軽の墓)」
       と刻ませました。

       小師部栖軽の墓は、奈良の「雷丘」に建っています。    

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