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髪長姫




  採取地域:和歌山県日高市
  ひとこと:道成寺創建に伝わる伝説です
  原  典:
  登場人物:髪長姫 渚 早鷹 文武天皇 藤原不比等
  物  語:昔、むかし、といっても、藤原不比等公の時代なわけですから、
       奈良時代ということになりますが。

       和歌山日高には、村人に尊敬される村長夫婦がおりました。
       奥様の名前は、渚。
       旦那様の名前は、早鷹。
       ごく普通の2人はごく普通の恋をし、ごく普通の結婚をしました。
       ただひとつ違ってたのは・・・。
       それは、これからお話します。

       二人には子供がありませんでした。
       そこで、毎日、八幡宮に詣でては、「子供を授けてください」と
       お願いしていました。
       武勲の神様であるところの八幡様としては、「子授けはわしの得
       意分野とちゃうけんのぉ」と言いたいところだったでしょうが、
       そこは神様の人脈もとい、神脈を生かしてくださったのでしょう。
       間もなく二人にはかわいい女の子が生まれました。
       とてもかわいらしい女の子でした。

       夫婦は相談しました。
      「なんという名前にする?おまえ」
      「八幡宮の神様に授けていただいたから・・・」

      「お、そうか。じゃ、八にしよう」
      「だめよ。うっかり者に育ったらどうするの?」

      「難しいなぁ・・・。じゃ、はちまん、の、『まん』でどうだ?」
      「う〜〜ん、関西じゃぁ、『まん』はまずいんじゃないかしら??」

      「じゃ、宮とかいて、『ぐう』ってのはどうだ?!」
      「なんでやねんっ!!」

       ということで、女の子の名前は「宮」と書いて、「みや」になり
       ました。

       宮は、本当にかわいらしく育って行きました。そう、顔は。
       ただ、髪の毛が一本も生えてこなかったのでした。

       髪は女の命。
       母の渚は、生来真面目な質だったのでしょう。娘に髪が生えない
       のは、自分の罪を娘が被っているんじゃないか、なんて思い悩み
       ます。

       いるんですよね。こういう、世界が自分で周ってると思ってる、
       一見控えめな傲慢な人。

       さて、そんなある日、海が不思議な光でまばゆく光り始めたので
       す。同時に、それまで豊かだった漁場が、なぜか不猟の連続。
       村人達は、困りました。

       そこで、でてきたのが、きました、われらが女戦士渚さんです。

       娘の毛が生えないのが私の罪のせいならば、私が人身御供になっ
       て海に沈めば、宮に毛が生えるかもしれない。同時にあの光も消
       えるかもしれない・・・。

       傲慢も筋金入りならば、高邁になり、尊敬するにやぶさかじゃな
       くなる、というよい例です。

       仏様のような威厳をまとった渚は海に飛び込みました。

       すると・・・。光がなんだか強くなったのです。
       なんだろう?
       実は海女でもあった渚は、正体を確かめたくなってきました。

      「黄金のサザエだったりして・・・ぷぷぷ・・・しまった。海の中
       で笑ったから、息苦しくなってきたわ。死ぬ前に見届けないと」

       必死で光源に近づく渚。
       そこに見たものは・・・。
       きらきらと輝く黄金の仏観音像だったのでした。

       そうなったらこのままにしておけません。ぜひとも陸にあげて、
       ちゃんとお祀りしないと。

       渚は、観音像を胸に必死で浮かび上がりました。
       そして、小さな庵を結び、そこに観音像を安置したのでした。

       その夜、渚は夢を見ました。

      「なぎさ〜〜、な〜ぎ〜さ〜〜〜」
      「はれ、あの声は」
      「今日、お前に海の底から脱出させてもらった観音じゃぁ」
      「おやまぁ」
      「そこで、お礼に何か願い事はないか?」
      「それなら。それなら、娘の宮に髪の毛をください」
      「何本?」
      「そやなくて!
       頭に髪の毛を生やしてやってほしいんです」
      「ほな始めからそう言わんかいな。よ〜うわかった。
       そしたらな、この事、叶えたるわ。
       夢ゆめ疑うことなかれ〜〜〜」

       渚が不思議な夢から起きると、宮の頭にはもう毛が生え始めてい
       ました。
       もとから顔立ちが優れて美しかったので、髪の毛が生え揃うと、
       輝くほどになり、人々は宮を「髪長姫」と呼ぶようになったので
       す。

       髪長姫は、授かった美しい黒髪を、「観音様からの授かり物」と、
       とてもとても大事にしました。
       だから、髪の毛を切ったことがありませんでした。
       そして、抜けた長い毛は木の枝にかけておいたのです。

       しかし、そんなことを言うならば、姫自身は八幡様の授かり物な
       わけですから。
      「落ちた垢は、丸めて溜めて」
       おかんとあかんわなぁ・・・ううう。

       さて、ある日のこと、一匹の雀が、この髪の毛を巣材にしてはど
       うだろう、と思いつきました。
       そこで、木の枝にあった髪の毛を一本くちばしに咥えると、棲家
       を構えるのに、よさそうなところを探しに出かけたのです。

       ところが、なんとしたことでしょう。
       その長い髪の毛は目立ちすぎたのでしょうか。
       策士・藤原不比等の目に止まってしまったのです。

       思わず雀から髪の毛を取り上げる不比等公。
       ひどいっ!!

      「美しい。美しすぎる。こんな髪の毛を持った女性はさぞかし美し
       いだろう。美しいに違いない。美しいに決まってる。よし、決ま
       った!!」
       と勝手に決めて、姫を探し出しました。

      「髪長姫」が、広く有名だったことが幸いしたのか、それとも、不
       比等公の絶大な力ならばどんなことでも可能なのか。
       テレビのないこの時代、一人の女性を手がかり髪の毛一本で探す
       なんつぅのは可能なんでしょうか?
       いや、可能だからこそ、姫は見つかったのですが・・・。
       それにしても、えらい難事でしょう。
       なによりも、髪の毛一本に、こんな困難をさせる魅力がある、と
       いうのが、ど〜〜〜も、納得いかないんですよね。
       例えば、胸毛一本見て、「まぁ、なんて長い胸毛。きっとぼぉぼ
       ぉもじゃもじゃの素敵な胸毛なんだわ。こんな素敵な胸毛の男性
       は男っぽくて素敵に違いないわ!」と・・・。
       私なら絶対、思いませんね。はい。

       閑話休題。

       この美しい姫を見て、不比等公は自分の養女にすることにしまし
       た。
       普通、美しい女性を見つけたら、妻にしようとすると思うのです
       が・・・。
       さすが不比等公、と言うべきでしょう。
       彼にはもっと遠大な考えがあったのでした。

       そう、勿論、彼女を皇后にすることです。

       そんなわけで、ただでさえ美しい髪長姫は、不比等公の英才教育
       を受け、文武天皇に輿入れし、聖武天皇を生むことになります。

       そして、天皇は、髪長姫に髪を授けてくださった観音像を安置す   
       べく、姫の故郷に「道成寺」を建立したのでした。
       めでたしめでたし。

       すごい立身出世。
       まさに女版・豊臣秀吉の物語でした。

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