hero

曲殿の姫君




  採取地域:京都市
  ひとこと:
  原  典:古本説話集
  登場人物:兵部大輔の姫君 乳母
  物  語:登場人物A 女性 機転 快活 軽はずみ
       登場人物B 女性 控えめ 陰気 慎重 美女

       Aのような性格の人間がBの世話をする場合、大概の場合、Bの親、
       ことにBと同じような慎重で陰気な親からは、気に入られないが、
       B本人はAを頼りにすることが多いようで

       A・Bの時代にあっては、Bの結婚は、Bの親はさることながら、A
       の手腕によって決まる場合が多い。

       Bの親が慎重で、結婚に手腕を発揮できない場合、Aが知人のつてで
       Bの結婚を世話することもあるのだった。

       この場合、Bの親はAに、安易に結婚話をもちかけられないようにと
       いうことばかり気をつけていたので、Bは適齢期になっても、結婚話
       はおろか、Bが美女であるということも世間に知られていなかった。

       非常に不幸なことである。

       親の教育のせいで、BはAの結婚話にちっとも乗り気になれず、ただ、
       結婚話を拒否することしかしなかったのも、なんともかんとも不幸で
       あった。

       親が亡くなってやっと結婚することができたBではあるが、不幸なこ
       とに結婚相手は父親の地方赴任に従って地方へ下ってしまった。
       親の了承をえた結婚ではなかったので、姫を地方へ伴えなかったので
       あった。

       そうすると、また世話をしてくれる人もいないBである。
       Bの親はAを警戒する前にもっとすべきことがあった、と、今になっ
       てわかるのであるが、本人は他界しているので、文句も言えないので
       大変口惜しいことである。

       口惜しいといってられるうちはよいのだが、口寂しくなって、お腹は
       寂しいどころではなくなってきた。
       家の手入れをする人もいないので、庭は寂しいどころか、うるさいの
       である。

       雨の日なんかは、非常ににぎやかだが、やはりお腹は空っぽなのであ
       った。
       反対であれば、いいのだが、代えられるものじゃないのが、これまた
       悔しいところである。

       とうとう、乳母の夫が亡くなると、
       物乞いでもするか、尼にでもなるか、と、
       AとBは、家を出た。

       Aは、いろいろツテを使って、なんとか飢え死にしないほどの食料を
       調達してくるのだが、二人分はなかなかまかなえないようである。

       Aの分の御飯も食べたら少しはお腹がいっぱいになる、などとBは少
       しは考えたかもしれないが、それでAが飢え死にしてしまっては困る
       ので相変わらず二人で腹をすかせていた。

       こういう場合、動いている分Aの方の空腹がひどいとはずではあるが、
       気力のないBの方から先に衰弱してしまうものである。

       衰弱したBが、曲殿で横たわっているところへ偶然やってきたのは、
       地方赴任から帰ってきた、Bの夫であった。

       夫を見ると、Bは

      「手枕のすきまの風の寒かりき身はならはしの物にぞありける
       昔は、手枕をしていた隙間からくる風さえ寒かったのに、人間って慣
       れるもんですねぇ」       

       と、控えめも度が過ぎるぞ!!
       てな内容の、歌を詠むなりこときれてしまったのであった。
       最期を看取ったAも、哀しくなって大泣きであった。


       他人まかせだった人物=B・Bの両親・Bの夫
       自分で行動した人物=A

       Aには不幸なことであった。
       他人任せな社長と他人任せな上役の会社を捨てられなかったのが、
       Aの不幸であると思われる。

       仕える相手を間違えるべきではないのであるのだなぁ。

home 昔話のトップに戻ります back