hero

しっぺい太郎




  採取地域:宮城県桃生郡
  ひとこと:子供のころ、好きだった物語です。
  原  典:
  登場人物:和尚さん しっぺい太郎
  物  語:むかしむかし、桃太郎は犬と猿と雉をお供に、鬼を退治しま
       した。

       むかしむかし、八伏は、伏姫恋しさに敵の首を討ちとってき
       ました。

       さて、むかしむかし。

       全国を周っていた和尚さんが宮城県のある村へやってきた時、
       村の家々すべてで餅つきをしていました。

       にぎやかだなぁ。いいなぁ、そう思ってみていると、一軒だ
       け、餅つきもせず、ひっそりとした家があったのです。

      「なんだろう。おかしい」

       和尚さんは、不思議に思って、家の中を覗いてみました。

      「きゃ〜〜〜っ、覗きよ!!」
       といわれることもなかったので、和尚さんは、中へ入ってみ
       ることにしました。

       お勝手にも誰もいない。
       お風呂にも誰もいない。
       手洗いにも、誰もいない。
       家の人はどこにいるのだろう・・・と思ってみると、真ん中
       の部屋に家族全員が集まり、娘を中心にして、おいおい泣い
       ているのでした。

       他の家はお祭騒ぎなのに、この家だけ葬式のような有様。
       和尚さんは、思わず声をかけました。

       すると、突然の侵入者に驚くこともなく、家の人は、答えま
       した。

      「この村の神様が毎年生贄を要求するのです。今年は私の娘を
       人身御供にせねばなりません」
       と。

       その神様は山の古い祠に住んでいて、秋の刈り入れ時に、毎
       年一人ずつ、娘を捧げなければならず、もし人身御供がない
       と、大嵐を起こすんだとか。

       こういう話は各地にありますが、この後、英雄がでてきて、
       娘を助けるんですね。
       この話では「しっぺい太郎」が英雄に違いありません。

       ということは、この和尚さん、しっぺい太郎という名前なん
       でしょうか?

       いいえ。
       しかし、和尚さんが剛の人であったのは違いなく、
      「なんとかしましょう」
       と古い祠の前の洞穴に隠れて夜を待ちました。

       すると、どこからか、大勢の気配がやってきました。
       そして、その中の大将らしきものが、
      「しっぺい太郎はいないか?」
       と聞くと、手下らしき声が、「今日もきておりません」と。

       気配は祠の中へ消え、中から、歌声が聞こえてきました。

      「あのことこのこと聞かせるな
       竹箆(しっぺい)太郎に聞かせるな
       近江の国の長浜の
       しっぺい太郎に聞かせるな
       すってんすってんすってんてん」

       自分達が恐れている者の名前をこんなに宣伝するとは、あま
       り賢い神様ではなさそうですね。

       しかし、和尚さんにとっては朗報。

       朝が明けると早速近江へと風のように旅立ちました。

       そして、長浜について、会う人すべてに、
      「しっぺい太郎という人を知りませんか?」
       と聞いて周ったのです。

       朝がきて夜がきました。
       この日はしっぺい太郎という人は見つかりませんでした。
       また朝がきて夜がきて、しっぺい太郎は見つかりませんでし
       た。
       また朝がきて、今日こそは探して連れて帰らないと、娘を人
       身御供に差し出すまでに間に合わなくなりました。

       でも、誰も「しっぺい太郎」という人物を知りません。

       和尚さんはがっくりして、石の上に座り込みました。
       すると。

      「しっぺい太郎、帰るぞ」
       という声が聞こえるではありませんか。
       001時間、危機一髪で、しっぺい太郎が見つかったのです。

       どこにいるのだ?しっぺい太郎は・・・。
       が、どこにもそれらしき人物はいません。
       先ほど「しっぺい太郎」と呼んだとおぼしき農夫がいるかぎ
       り。

       和尚さんは、
      「しっぺい太郎とはどの方でしょうか?」
       と尋ねました。

       すると、農夫が指差したのは、子牛ほどもある大きな斑犬で
       あったのです。

       そうか、と和尚さんは合点がいき、事情を話し、しっぺい太
       郎を借り受け、大急ぎで宮城に戻りました。

       村では、時間ぎりぎりになっても和尚さんが帰ってこないの
       で、村人達は、娘を長持にいれ、人身御供に差し出す準備に
       とりかかりました。

      「早くしないと、嵐になるからな」
       と無慈悲に言う人もおりましたし、
      「かわいそうに」
       と泣く人もおりました。

       思うに、「早くしろ」と言った人は、自分の娘を人身御供に
       出したことがあるのでしょう。
      「かわいそう」という人は、自分に娘がなく、他人事なのかも
       しれません。

       娘も覚悟を決めたその時。
       和尚さんが息を切らして、帰ってきたのです。

       そして、娘の代わりに、自分としっぺい太郎が長持に入ると、
      「祠に持っていくように」
       と指示したのでした。

       それでもまだ、村人の中には、
      「そんなことをして、神様が怒ったらどうするんだ」
       という人もいました。

       過去に自分の娘を犠牲にした人にとっては、やりきれない思
       いだったでしょう。
       でも、この「神様」という名前の「悪魔」をこのままにして
       おくよりも、ここで人身御供をストップできるなら、それに
       こしたことはない・・・と、説得されたのかどうか、結局、
       皆、和尚さんの行動に賛同したのでした。

       さて、和尚さんとしっぺい太郎が、息を潜めていると、間も
       なくまた大勢の気配がし、

      「しっぺい太郎に聞かせるな」
       の大合唱が始まりました。
       当のしっぺい太郎が聞いているというのに、かなり賢くない
       神様のようです。

       そして、大将らしきものが、長持の蓋に手をかけると・・・。
       しっぺい太郎が一声鋭く鳴き、化け物に飛び掛りました。

       和尚さんも、刀を抜いて、他の化け物に斬りかかっていきま
       した。

       次の朝、村人達が、
      「和尚さんはもう無事ではあるまい」
       と、祠に集まってきたところ、累々たる死体の山。もとい屍
       骸の山。
       死んでいるのは、大きな猿たちでした。

       中でもひときわ大きいのは、狒々で、体毛は針金のように硬
       く、しっぺい太郎に喉を噛み切られて死んでおりました。

       めでたし、めでたし。

       しかし、犬猿の仲と言うくらいで、猿と犬の中が悪いのは、
       有名ですが、なぜ、宮城の猿が、滋賀の犬を知っていたのか
       不思議ですね。

       神と名乗るくらいの力もあった猿。
       嵐を起こす力のあった猿。
       その猿を倒す力のあった犬。

       爽やかで、勇猛な武将を連想してしまうのですが、いかがで
       すか?       

home 昔話のトップに戻ります back