採取地域:京都府京都市 ひとこと: 原 典:宇治拾遺 今昔物語 登場人物:藤原保昌 袴垂 物 語:なんで、捕まっちゃったかなぁ。 ちくしょ〜。 俺様は袴垂だぞ! 盗賊の大親分だ!! チンケな役人に捕まるような俺様じゃないわい。 ・・・・・・・。 なんで捕まっちゃったかなぁ。 あぁ、見るな、見るな!! ひそひそ言うな〜〜〜〜〜っ!!! お前らみたいなつまらんやつらに俺の噂なんぞされたくないわい。 俺についてどうこう言っていいのは、そうだな。 あのお方だけだ。 もう、何年前になるか。 霞んだ月がきれいな晩だった。 10月だったな。あれは。 寒くなってきたんで、俺は、追い剥ぎでもしようか、と、潜んで いた。 すると、そこにお供もつけない、そりゃぁ高貴なオーラを纏った 貴族が笛吹きながらやってくるじゃねぇか。 こりゃぁ、カモだわいってんで、俺は後をつけた。 後ろから走りよって、衣をはいじまえ、と駆け寄った。 ところが、だ。なんか、恐ろしいのよ。 その人のオーラが、俺をびびらせるんだ。 しかし、俺だって、オーラびんびんの大盗賊だからな。 ひるんでちゃぁ、いかんだろうが。 そこで、自分を励ますように、足音高く、近寄ったところがだ。 かのお人は、笛を離しもせず、くるりと振り返った。 だが、隙がねぇのよ。 ここで、引き下がっちゃぁ、男が廃るってんで、俺はしつこく付 き纏った。 でも、どうしても、隙がねぇ。 慌ても騒ぎもしないから、隙がまったくできね。 ままよ、と、刀を抜いて、駆け寄った。 そしたら、かの人は、静かに、振り向いて、 「お前はいかようのものだ」 ときたもんだ。 もう、俺はさ、ちぢこまっちゃて、ただ、 「追い剥ぎです」 と答えることしかできねぇの。 そしたら今度は、 「名はなんという?」 だよ。 俺も素直に、 「通り名は、袴垂でげすよ。げすげすげす」 追従笑いまでしちまって、情けねぇんだが、体がそう反応しちま うのよ。 そしたら、ありがたいじゃないの。嬉しいじゃないの。 「名前は聞いたことがある」 だなんて。 いやぁ、思わず喜んじまったよ。 俺も捨てたもんじゃないねぇって。 そんときゃ正直、そう思ったよ。 「付いて来い」 ってまた笛を吹きながら歩き出したこの人の後姿はなんともいえ ず、恐ろしいんだ。 だけど、付いていかずにおれねぇ。 いわれるままに付いていったらよ。 家に着いて、この人が、摂津前司藤原保昌って名だってことが知 れた。 もう、俺は子供みたいに、小さくなって、立ち尽くしてたよ。 そしたら、保昌様は、俺に上等の分厚い着物をくださった。 そして、こうおっしゃった。 「着物が欲しければ、私に言いなさい。 知らぬ人に追い剥ぎをするなんぞという過ちを二度と犯すではな い」 深〜〜〜い眼をしてね、こう、おっしゃったのさ。 はぁ、俺ァ感動したね。 心の底から、この人に惚れちまったね。 この人になら、何されてもいいって思ったよ。 だ〜〜か〜〜〜〜ら〜〜〜〜〜、お前らみたいな、小物に捕まっ たのは、返す返すも手落ちだよっ!! ちくしょ〜、寄るな、触るな、話しかけるな!! だ〜〜〜!!!!! ・・・はぁ。 な〜〜んで捕まっちゃったかなぁ。はぁ。