採取地域:大阪府羽曳野市 ひとこと: 原 典:日本書紀 登場人物:田辺史伯孫 物 語:嬉しいかな、嬉しいかな。 孫が生まれた、生まれたんだよ~ん。 あ、わし、田辺史伯孫。 書首加竜んとこに嫁いでた娘が、孫生んだんでね。 孫の顔見てきたわけさ。ふふふ。もみじみたいな手がか~わいい。 さ~すがわしの孫。 ありゃぁ、賢くなるぞ~。目が違うもん。目が。 え?生まれて間もないのに、まだ目が開いてないだろって? い~の。わかるの。賢くなるんじゃっつうの!! さて、と。 古市にある加竜んちから、飛鳥戸にあるわしんちまで、ち~と、距離 があるんでね。 もう少し、急ぐかね。 だいたいねぇ。 この誉田の陵ね。 応神天皇の墳墓なんだっつぅ話だけどさ。 でかいのよ。 まさか、王墓を横断するわけにはいかんしさ。 ぐるっと迂回するのが結構遠回りで、はぁ、年寄りには答えるわい。 なんてねっ。 年寄りてほどの年齢じゃないのは、顔みたらわかるっしょ? ほらほら、まだピンピンしとるわい。 ほっほっほ~。 まだまだ老けやせんぞっ。 孫に、「じいちゃんじじくさ~い」なんて言わせないもんねっ。 おっと、前に馬に乗った人がおるわい。 ちょ~っと話しかけてみんかね。 孫自慢したいもんねっ。 しかし、あの馬、いい馬だねぇ。 いや、わし、馬にはちょっとうるさいよ。 ヒヒンヒヒンヒヒ~~ン!! なんちゃって。なんちゃって。 「そりゃ、『馬の鳴き声がうるさい』でしょっ!!」 てかぁ? いやいや、ツッコミどうもありがとう。 いやいや、あの馬、ほれ、首がす~っと長くてさ、脚は、決して太く はないが、腱がしっかりしてるでしょ。 ああいうのが速いのよ。 いいなぁ。 おっと、駆け出したぞ。 うわっはやっっ!! くそ~ええの~~。 わしの馬と交換してほしいのぉ。 あんな馬持ってたら、孫に、 「じいちゃんかっこい~」とか言われるに違いないのにのぉ。 お。 なんじゃ。立ち止まって、わしが追いつくのを待ってるじゃないか。 「やぁやぁ。いい馬ですなぁ。うらやましい。実にうらやましい。 わしの馬と交換してくれたら嬉しいなぁなんて思うほどうらやましい ですぞ。いや、交換してほしいなぁ~。なんて、えへえへえへ」 「え?なに?交換してくれる?ほんとに?うちの馬は普通の馬ですよ。 いいんですかい?そりゃどうも。いや、ありがとう。どもども。 気が変わった・・・とか言い出さないでくださいよ。いやいや、ども ども。んじゃ、これで。はい。さいなら。ありがとうね。」 ・・・・・・・。 「お~~~~~いっ!!ありがとな~。んじゃな~。ありがと~~。 後悔すんなよ~~~。」 はぁ。驚いたね。こりゃ。 こんな駿馬と簡単に交換してくれるとは思わなかったね。 言ってみるもんだねぇ。 と思ってたら、家に着いちゃったよ。 さすがよい馬は速いねっ。 じゃ、厩につなぐかね。 「馬ちゃん、どもありがとね~。また明日ね。おやすみ。チュ」 ・・・・・。 これが、昨晩のできごとでございます。 私、伯孫、この次の朝、つまり今朝ですな。 馬ちゃんのご機嫌を見ようと、厩に入ったら、なんか、この駿馬が 固いんですわ。手触りも変。 「ありゃ?」とよくよく見ると、それは、土でできた、馬の埴輪。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 ひぇ~~~~~~~~!!! ゾゾゾ~~~っ!! んじゃ、昨晩、会った、あの男は、なにもの?? 妙~~に、表情がないと思ったよっ!! あの男も埴輪かよっっ!! わしの馬はどないなったやろ~。 まさか、墓に引きずりこまれて、生き血をちゅ~~~~~っってな ことになっとりゃせんやろなぁ。 どないしよ。 もし、そないなスプラッタなことになってたら、わし、見るの、い ややなっ。 どないしよ~。 でも、あの馬かって、いい馬でさ。 そんなに走るのが速いわけじゃないけど、我慢強い馬でさ。 もし、取り殺されたとしても、墓くらいは作ってやらんとなぁ・・。 とりあえず、この埴輪の馬を持っていかにゃならんが・・・。 重いなぁ。 はぁ。 埴輪で中が空洞やっちゅうても、こりゃかなり重いで。 さて、古墳のどこに置いたらええかな。 やっぱし、馬の埴輪が並んでるところがええわな。 お、あそこに、馬の埴輪が並んどるわ。 ここに置いたろ。 ・・・あ~~~~~っ!! わしの馬や、わしの馬や。 アオ~~~、無事やったんかぁ。そうかぁ。 ほんまに、「交換」しただけやったんやなぁ。 この埴輪馬の持ち主さん、すいません。 折角交換してもらいましたけど、悪いけど、キャンセルさせてくん なはれ。 ほじゃ、あんさんの馬置いて帰りますさかい、わしの馬もろて帰り ますな。 昨日の晩は楽しかったでっせ。 ほな、また。 ほなな~。 もう、化けてでんなよ~。 ちょんちょんちょん。 日本の「正史」、日本書紀に修められた「怪談・月夜の埴輪馬」 でございました。m(__)m