love

吉祥天の置き土産




  採取地域:兵庫県稲美町
  ひとこと:
  原  典:古本説話集
  登場人物:吉祥天 僧
  物  語:和泉国の国分寺に鐘衝きの僧がおりました。
       この僧が、この寺に安置されている吉祥天に懸想したのは、まぁ
       よくある話。

       しかし、この僧のように、吉祥天に抱きついたり、接吻したり、
       こともあろうに、指でつまんだりした男はそうそうおらんでしょ
       う。
       え?そうでもない?・・・そうですか。

       いや、あの、仏像ですからね。そこんとこ勘違いのないように。

       しかし、もっと珍しいのは、そんな無礼な僧に、吉祥天が思いを
       かけたことでしょう。

       いつものように僧が吉祥天をいじくりまわして(!)いると、像
       がいきなり動き出し、

      「そこまで私に惚れるとは、愛い奴である。某日、播磨の印南野に
       おいでなさい。妻になりましょう」

       と言ったというわけです。

       吉祥天、冒険家ですね・・・。
       物好きというかなんというか。

       これで、この僧が怖気づいてしまえば物語は始まりも、終わりも
       しません。
       当然、僧は指定された日に、印南野に出かけます。
       そして、当然のように、美しい女性と出会うんですねぇ。

       あまりの美しさに、僧が口も利けずにいると、

      「私よ、私。よく来たわねぇ。さ、まず家を作ってよ」
       と、吉祥天は明るい町娘みたいにねだるのですが、どうしろと言
       うのでしょう。
       僧は手ぶらだし、お金があるわけでもなし、困っていると、

      「ま、とにかくやってごらんなさい。なんとかなるから」
       と、気楽なもんです。

       そうすると、そこに人が現れ、
      「なにしておじゃる?」
      「おやおや、家を建てるんですか」
      「私にお任せあれ」

       と、ランプの大魔人のようなことを言って、人々を集め、あっと
       いう間に豪邸を建ててしまいました。

       この人物、土地の有力者だと言う話ですが、どうも話がおかしい。

       吉祥天の魔法だったのかもしれません。

       さて、それから二人は幸せに暮らしたのですが、
       一つだけ約束がありました。
      「浮気絶対禁止」

       当たり前やろ!!
       勿論、僧は
      「僕が浮気なんかするわけないじゃないか」
       と、瞳を潤ませ、吉祥天を喜ばせたのでした。

       それだけでも、この僧、十分果報者といえるんですが、それだけで
       なく、何をやってもついている。

       田圃を作れば他の田圃の10倍の収穫。
       馬や牛はどんどん子供を産んでよく働く。
       商いをすれば飛ぶように売れる。
       宝くじを買えば、前後賞合わせて3億円!!・・・これはウソ。

       そんなわけで、あっと言う間に、僧は地方の有名人になり、国守も
       僧は特別に扱いました。

       が、好事魔多し。

       このまま幸せに物語が進行したとしたら、何が面白いでしょう。
       この物語の作者もそこらへんは心得ています。

       僧が、上の郡へ、用事にいくように仕向けます。

       うんうん。
       旅行中はハメを外しがちだよね。

       僧はなにしろ金持ちですから、太鼓持ちがたくさんくっついてくる
       のも当然です。

      「べっぴんさんがおりまっさかい、足揉ませまっさかいな」

       なんて言ってくるわけですね。

       僧は、あほうではありませんから、
      「どんな別嬪さんでも、わしの嫁はんに叶うかいな」
       と自制します、が、ここが男だね。悲しい性だね。

      「でも、まぁ、足揉ませるだけやったらええやろ」

       と、娘が彼の寝所に入ることを許してしまうわけですね。

       ばっかで〜〜。
       それで酒でも入ったら、おしまいやで〜〜・・・多分。

       はい、想像通り。
       想像通りのことになっちゃました。

       僧が恥じを知る男なら、吉祥天との約束を破った時点で、もう、印
       南野の家には帰らないと思うんですが、のこのこと帰るのですね。

       未練たらしいなぁ・・・。

       吉祥天に、浮気がばれてないわけがないもの。

       印南野には屋敷も畑もなく、ただ風が吹いているだけで、僧は呆然
       と立ち尽く・・・すことにならなかったのは、女としてはちょっと
       物足りませんが、吉祥天はちゃ〜〜んと待ってました。

      「知ってるわよ」
       これを言うために。

      「私、帰る」
       こう言って、僧の悲しむ顔を見るために。

       思うに、吉祥天は僧に惚れてたんですね。

       僧は、必死で止めますが、馬鹿ですねぇ。
       こういう場合、止めれば止めるほど、相手は、
      「いやっ!!絶対帰るっ!!!」
       ってなるのにねぇ。

       案の定、吉祥天は、
      「いやべ〜〜〜っ!!帰りますっ!!!」

      「それから、これ、今までお世話になったものですからっ!!」
       と桶を二つ。
       どすっ!!
       と置いて天へ昇ってしまいました。

       なんだろう??
       まさか、桶の中を覗き込んだら、煙がもうっ!!
       あっという間におじいさん。
       になったりしないだろうなぁ。

       僧が恐る恐る覗き込むと、白い煙・・・じゃなくて、液体だった
       のでした。

      「ホッ!!」
       しかし、この臭いはなんだろう・・・。

       よく知ってる臭い。
       すごく身近に感じる臭い・・・・・。

       保健体育の教科書風に言えば、栗の花のにおい・・・・・・・。

       うげげ。

       しかし、僧はこの後、特についているというわけでもないけれど
       も、それなりの暮らしを続けることができたし、世間の評判もよ
       く、幸せな余生を送ったようです。

       呑気で人のよい天女なんですね。吉祥天って。

       しかし、僧は、置き土産の精液、どないしたんでしょうね。

home 昔話のトップに戻ります" back