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鬼がかぼちゃを怖がる理由




  採取地域:京都府中郡峰山町
  ひとこと:丹後地方に伝わる昔話です。
      「ふるやのもり(古家の雨漏り)」と題する昔話が、鬼を狼に、かぼ
       ちゃをふるやのもりに、代えて全く同じストーリーで伝わっていま
       すし、「世界童話宝玉選」という童話集に、インドの話で、
       姫を攫いにきた悪魔が、姫が口にした、「日暮れが一番ぞっとする」
       というセリフに、「日暮れ」を怯える
       というほぼ同じ話が「日暮れ違い」というタイトルで載っていまし
       たから、京都独自の伝承とは限らないかとも思います。
  原  典:丹後・天の橋立の昔ばなし
  登場人物:鬼 狐 馬泥棒
  物  語:夜更けのことです。

       あるお金持ちの家に、忍び寄る二つの影がありました。

       鬼と馬泥棒です。

       鬼はその家の子供を、馬泥棒は馬をそれぞれ攫うつもりでいたわけ
       です。

       ここからは、実況中継いたしましょう。

       お、鬼はまず、塀を軽々と乗り越え、疾風のごとく、縁の下に潜り
       込みました。
       馬泥棒は?
       お〜〜っと、馬泥棒出遅れた。塀が乗り越えられず、裏へ廻りまし
       た。鍵をこじ開けております。てこずっているか?てこずっている
       が、しかし、逃走経路の確保は重要です。

       さて、先にでている鬼、縁の下で、上の親子の会話に耳を澄ませて
       おります。子供が一人になったところを狙おうという寸法でしょう。

       親子はどんな会話をしているのでしょうか??

      「わ〜〜〜ん、わ〜〜〜ん」
      「これ、泣き止みなさい」
      「わ〜〜〜ん、わ〜〜〜ん」
      「ほれ、飴をやるから、泣き止みなさい」
      「うわ〜〜〜〜〜ん!!!」
      「豆やるから、泣き止みなさい」
      「どわわわわ〜〜〜〜ん!!!!」
      「あんまり泣くと、鬼が縁の下から攫ってゆくぞ!」

       なんと、なぜ、鬼がいることがバレたんでしょうか?
       いや、これは、よくある脅し文句なようです。
       子供も、聞き飽きたとばかりに、無視して泣き続けています。

      「びぇ〜、びぇ〜〜〜〜!!」
      「わかった、わかった。じゃ、このカボチャをやるから」
      「ケロリ、ニコニコ。わぁ〜〜〜い」

       この会話を聞いた鬼、びっくりしたようです。
       なぜ、自分がここにいることがわかったのか?
       鬼である自分のことを畏れもしなかった子供が、かぼちゃを恐れて
       泣き止むなんて、かぼちゃとはどんな恐ろしい化け物なのか??
       首をかしげています。恐ろしげに、身をさすっています。考え込ん
       だようっです。そして、

       鬼は、うすら恐ろしくなって、馬小屋に隠れたぁ。
       なぜ、さっさと逃げないんだぁああああああ!!

       すると?なんとそこへ、やっと鍵を開けた馬泥棒が入ってきました。

       あたりをそ〜〜〜っと見回して、よい馬にあたりをつけたようです。

       抜き足、差し足、忍び足・・・で、馬乗りになったのは〜〜〜??

       なな・なんと、一歩先に忍び込んだ鬼の背中だぁ。

       鬼もびっくり、

      「これが、かぼちゃという化け物か?なぜ見つかったんだぁあああ??」

       と叫ぶなり、駆け出したぁ、速い、速い、はやい!!!

       馬泥棒、大喜びの表情だ、速い馬を盗むことができたわい、と考え
       ているようです、間抜けなりぃぃぃぃいいい!!

       しかし、馬泥棒、馬の毛にしては、剛いことを不思議に思ったか、
       ふと前を見ると、馬の耳ではなく、そうだ、角だ、鬼の角だ!!
       焦っている、焦っている、あせっている。
       どうする、どうする、どうする、馬泥棒、ここが運命の分かれ目!

       転げ落ちたぁ!!やはり、やはり、やはり、自分の体が一番大事だ
       鬼を捕まえたら英雄かもしれないが、それよりも自分の身を守る方
       が大事だと悟ったのでしょう。
       馬泥棒は、鬼の背中から転げ落ち、手近にあった洞穴に逃げ込みま
       した。

      「かぼちゃ」がやっと背中から下りてくれた鬼も、一安心。
       立ち止まり、汗を拭いております。

       そこへやってきたのが、人間世界についてちょっと詳しいと普段か
       ら、鼻にかけている狐です。

       大汗をかいている鬼に何事か、と聞いているようです?
       大笑いしています。
       鬼の勘違いに気づいたのでしょうか。

       馬泥棒が入った洞穴を覗き込み、またくすり、と笑い、洞穴を岩で
       ふさぎ始めました。
       馬泥棒を生け捕りにするつもりか。
       いくらちょっと情けない馬泥棒でも、狐と真っ向勝負して負けやし
       ないでしょうが、ここには鬼がおります。
       これぞ、鬼の威を借りる狐と申せましょう。       

       中にいる馬泥棒、焦っています。
       折角逃げられたのに、なんてことしやがる、この狐め、と、棒切れ
       を手にしました。

       そして、狐のお尻目掛けてぷすり!!

      「いで〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

       狐は大慌てで逃げていきました。
       わ〜〜〜っはっはっは。
       気取っているやつぁ、大概こういう退場の仕方をさせられます。
       はっはっは。
       間抜けです。わっはっは。

       残された鬼、驚いています。
       だんだん顔色が青くなっていきます。
       今や真っ青、まさに、まさに、ま〜さ〜に〜、青鬼状態だぁ!!

      「やっぱりかぼちゃは、怖いやないかぁ!!」

       一声叫んで、一目散に山へ逃げて行ってしまいました。
       残された馬泥棒は?
       こそこそ逃げて行きます。
       逃げていきます。闇にまぎれてしまいました。

       全員、退場〜〜〜〜〜。

       これで、実況中継を終わります。 

       そんなわけで、丹後の鬼は、かぼちゃを怖がります。
       かぼちゃをたくさん食べた元気な子供のことも怖がるんだそうです
       よ。

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