tonchi

たらいまわしにされる話




  採取地域:京都市
  ひとこと:
  原  典:古本説話
  登場人物:比叡山の僧 鞍馬寺の仏様 清水寺の観音様 賀茂神社の神様
  物  語:むかしむかしのことでした。
       お役所「かみさまほとけさま」は、ごくごくのんびりとお仕事
       をこなしておりました。

       そんなお役所の、「鞍馬寺窓口」に、非常に貧しい僧が立った
       のは、今から千年以上も昔のことです。

      「もう少し楽な暮らしをしたいのですが・・・。とりあえず、七
       日、ここで待ちますので、よろしくお願いいたします。」

       鞍馬寺窓口の担当仏様は困りました。
       なにしろ、この僧には、もう余剰の富はなく、特別福祉の条件
       にも合致していないため、どうしようもないのです。

       現世の暮らしは、前世での貯金や現世の(徳)稼ぎによって決
       まるのです。
       たまに、貯金や稼ぎ分があるのになにかの間違いで、苦しい暮
       らしをしている人がおり、そういう人たちにちゃんと配分をす
       るのがこのお役所なのですが、
       この僧は、貯金の残高が0なのです。
       現世での稼ぎもほとんどありませんでした。

       鞍馬寺窓口の仏様は、7日で帰るといっているのだから・・・
       と、7日何も答えずにおりました。

       ところが、僧は
      「それじゃ、7日延長します」
       というではありませんか。

       仏様は、困りましたが、それでも、「残高0ですよ」と口に出
       して言うのはむごいような気がして、黙っておりました。

       追加の7日が過ぎても、僧は帰りません。

       そうやって100日が過ぎ、しかたなく、仏様は、
      「申し訳ないのですが、こちらでは処理できません。
       清水寺窓口に回ってください」
       と言いました。

       さて、くだんの僧の訪問を受けた、清水寺窓口の観音様は、
      「古い資料もひっくり返せば、なんとか1円くらいは出てくるの
       じゃないか」
       と、普段は誰もいかない古い古い資料室を探しました。

       ところがなんということでしょう。
       1円どころか50銭もこの僧の配分はなかったのです。

       観音様は、困りました。
       でも、黙っていました。
       僧は前世のことも現世の徳のことも知っているはずです。
       黙っていれば、自分の前世と現世の徳がなかったのだというこ
       とを悟るだろうと考えたのでした。

       ところが、僧は闇雲に粘ります。
       そのまま100日経ち、とうとう観音様は口を開きました。

      「あぁ、申し訳ないのですが、こちらではあなたのためにしてさ
       しあげることができません。賀茂神社窓口の担当で聞いてみて
       ください」

       こういえば、さすがに僧も、自分の徳を悟るか、と期待したの
       ですが、ただ、
      「そうですか、わかりました」
       と言っただけで、僧は賀茂神社窓口に並びました。

       賀茂神社窓口の神様も、困りました。
       もう一度、鞍馬寺窓口の仏様や清水寺窓口の観音様が探し漏れ
       ていないか、と僧の徳を探したのですが、1銭の貯金もなかっ
       たのです。

       神様も仕方なく口を閉ざしました。
       しかし、やはり僧は粘ります。
       99日経っても帰る気配はありませんでした。

       神様はどうしようか、と考えました。
       また違う窓口に振ることはできるけれども、キリがないんじゃ
       ないだろうか、と。

       そして、ふと思いつきました。
       役所「かみさまほとけさま」には、「神仏庫」があります。
       本来受け取るべき「徳貯金の払い戻し」を受けずに千年経つと、
       この「神仏庫」に入るのです。

       本来、この神仏庫から一人の人間に何かを授与することはない
       のですが、神様はたまたま、この「神仏庫」に、誰も欲しがら
       ず始末に困っているものがあることを思い出したのです。

       そこで、僧に、それを交付することにしました。

      「少しばかりの紙と米を配給します。追って届けますので家へ帰
       ってお待ちください」
       と僧に告げると、僧はがっかりした様子を見せながらも、さす
       がに、自分の前世と現世の行いでは、それで精一杯なのだ、と
       悟り、とぼとぼと帰っていきました。

       しかし、神様が「誰も欲しがらないもの」と思っていた紙と米
       は、人間にはとても珍しいものだったのです。
       なにしろ上等の紙と米である上に、使っても使ってもなくなら
       なかったからです。

       それが評判になったため、役所「かみさまほとけさま」は、連
       日、貯金のない人たちが無理を言いにやってくるようになり、
       大変だったということです。

       情けはほどほどにね。そんな話でした。       

home 昔話のトップに戻ります back