tonchi

とんびになる話




  採取地域:高知市
  ひとこと:
  原  典:
  登場人物:与一
  物  語:むか〜〜し、むかしのことじゃ。

       与一という正直な魚屋の若衆がおった。

       ある日与一が魚を売り歩いていると、とんびがさっと飛んできた。
       あれあれ、と与一が驚いているうちにとんびは飛び去ったが、売
       り物の立派な鰹がなくなっとった。

       ちくしょう。とんびに鰹をさらわれた。

       与一は頭にきた。

      「あぁ、口惜しいなぁ・・・。そうだ」

       与一は思いついて、ある日、五台山の文殊さんのところにでかけ
       たんだと。

      「文殊さま、どうぞおらぁとんびにしてください。おら、とんびに
       なって、空飛びたいだよ」

       熱心に祈っていると、文殊さまのお堂の中から声が聞こえた。

      「与一よ」

      「うわっ、は、はい!!」

      「おぬし、本当にとんびになりたいのか?」

      「はい。そうです」

      「しかし、鳥になったら、しゃべれなくなるが、それでもよいか?」

      「え・・・。は、はい!!とんびになれるなら、しゃべれなくても
       ええ」

      「よし、願いは叶えられた。帰りにこの山で一番高い木に登ってみ
       よ」

       願いが叶えられたと知った与一は大喜び。

       さっそく、山一番高い松の木に登ってみた。
       が、下を見下ろすと、怖い。すごく怖い。とても飛び立てそうに
       なかったと。

       そうこうするうちに、お堂の中から若い衆が3〜4人笑いながら
       出てきた。

       ふと見ると、与一が松の木のてっぺんで飛ぼうかどうしようか、
       悩んでうろうろしている。

       若い衆の一人が、笑いをこらえて、与一を指差し、

      「あ、でかいとんびが松の木に止まってる」

       この若い衆の声が、文殊さまの声とそっくりだった・・・こと
       に与一が気づけばよかったんだが、残念ながら。

       若者も、まさか、与一が本当に騙されるとは思ってなかったん
       だろうから、お気の毒。

       冗談は相手みてやらないと、えらい目に合う。

       自分がとんびに変身したと思い込んだ与一は、思い切り両手を
       広げ、松の木から飛びた・・・ったつもりが、墜落。

       慌ててかけよった若い衆たちが、水をかけて、体をさすると、

      「羽根が折れるから、あまり揺すらないでくれ」

       と言ってから、はっと気づいたってさ。

      「しゃべれるってことは、おら、人間のままか?」

       しゃべれなくても、人間だよ!!

       若い衆たちは心の中で一斉に与一につっこんだと。

home 昔話のトップに戻ります back