採取地域:奈良県桜井市 ひとこと: 原 典:古本説話集 登場人物:若侍 観音様 物 語:主人公は、若いお侍。 両親もなく、妻も子供もない、天涯孤独の身の上なのは、ご存知 の通り、ただ、性格は・・・。 どんな性格だったと思いますか? 働き者で正直者なのに、運が悪くて、貧しい若者? そう、子供のころ読んだ昔話では、そのように描かれていたと思 います。 この古本説話ではどうでしょうか。 この若侍、生活していけなくなったので、長谷寺へやってきまし た。 「観音様、お助けください」 「こんな人生もうやだ。なんとかならないなら、このままあなたの 前で死にます。 もし、なんとかなるってのなら、どうやればいいか、具体的に、 教えてもらえるまでここから一歩も、一歩も、ずぇ〜〜ったい、 でませんから、そのつもりでねっ!!」 ひぇ〜〜〜。観音様脅迫してるよぉ。 そこに、長谷寺の僧がやってきて、不審に思い、 「どうしたのですか?」と親切に尋ねたというのに、 「私みたいな身寄りのない者は、面倒みてくれる人もいないし、食 事するところもないし、だ〜れも、気の毒がってさえくれないん です。だから、仏様がくださるものを食べていこうと思ってます。」 つまり、仏様(に仕える僧)が何もくださらなければ、死んでや る!! と、そう言ってるんですねぇ。 そんな性格だから、誰も気の毒がってくれないんだよっ!! しかし、お坊さん達は、観音様の前で死人が出るというのは、穢 れになり、観音様にも申し訳がたたない、というわけで、仕方な く、かわるがわるこの男に御飯を与えたわけです。 それが21日間続きました。 図々しいったらありゃしない。 さて、21日目も終わり、22日目の朝がくるかというころ。 男は念願の「夢」を見ました。 「お前は自分の前世の罪のことも考えずに、文句ば〜あっかり言う。 とんでもない奴だ。 でもまぁ、気持ちもわからんでもないから、観音様は、心遣いを してくださった。 とにかく、すぐここから出なさい。そして、その時にまず手に触 れたものを大事にしなさい。わかったら、さっさと出ていきなさ い。さぁさぁ。ほれほれ。さぁさぁ」 と、追い出された夢です。 観音様も、ほとほといやんなったのでしょうね。 傍目で見ても、やんなっちゃいます。 でも、この男も、「素直」という長所があったらしく、追い出さ れた夢から覚めてすぐ、自分から退出しました。 そして、いきなり転んで、その時手が触れたのが、藁であっても、 素直にそれを大事にしたわけです。 よかったね。性格がせめて素直で。 歩いていると、虻が顔の周りを飛んでうるさいので、持っていた 藁にくくりつけました。 ・・・これ、藁を大事にしてることになるのかどうか、判断が難 しいとこですね。 すると長谷寺に参詣するらしい牛車の中の、お坊ちゃんが、その 虻を欲しがったので、お供の者が所望すると、男は素直に、 「これは観音様がくださったものですが、若君が喜ばれるならどう ぞ」と差し出したわけです。 重ねて考えるに、大事にしてるか??? まぁ、若君は喜ばれ、男はお礼にと、大きな蜜柑をもらいました。 また暫らく行くと、高貴そうな女性が喉を乾かして気絶しており、 従者が大騒ぎして水を探していました。 従者の一人が若者に、「この辺りに水はありますか?」と聞いた ので若者は、「この蜜柑をどうぞ」と差し出しました。 おかげで女性は目を覚まし、「旅の途中なのでこんなものしかあ りませんが」と若者に御飯をご馳走し、白い布三巻を差し出し、 「私の都での住所は、これこれここそこです。お礼をしますから、 必ず尋ねてください」と申し出たのでした。 若者は、「藁が布三巻に化けた。この先、何になるんだろう」と ほくそえんでいました。 ん〜〜、なんだかなぁ。好感持てない男ではあるのでした。 すると、そこにそれは立派な馬を連れた男がやってきて、若者の 前にくると、突然、馬が死んでしまいました。 これは・・・。あまりにも出来すぎている。 男は従者の者に馬の死体を任せ、先に行ってしまいましたので、 若者は、その従者に話しかけました。 「旅先では、馬の皮を剥ごうにも困るでしょう。私はこの近所の者 ですから、この布一巻と交換しませんか?」 近所もなにも、住所不定なくせに、何言ってるんでしょう。 でも、従者は、大喜びで交換しました。 どうしようもなくておろおろしていたところでしたからねぇ。 従者が、「若者の気が変らないうちに」と逃げるように行ってし まってから、若者は、長谷寺に向かって手を合わせました。 「観音様、この馬を生き返らせてください。そうでないと・・・」 やな若者だよ。全く。 でも、観音様も乗りかかった船というところだったのしょうか。 馬は生き返りました。 若者は、残った布一巻で、馬に必要な鞍などを購入し、あと一巻 で、宿屋に泊まりました。 翌朝、早朝若者は出発しました。 「こんないい馬を連れていて、盗んだと間違われてはいやだから、 早く売っちゃおう」 というわけです。 すると、なんだかばたばたやっている邸宅があります。 そこで、若者は近づき、馬が入用でないか尋ねると、まさしく、 今、馬を探しているところだ、と。 そして、「今、絹などがないが、稲田と交換でどうだ?」と。 男は、「私は旅の者ですよ。田なんてもらってどうしようと言う のでしょう。でも、あなたが入用ならば、仰せのとおりにいたし ましょう」と答えました。 旅の途中といえば聞こえはいいけども、だから単なる住所不定で しょ???あったく図々しい。ほ〜〜んとふてぶてしいったら。 このうちの主人は、 「私は今から旅立つところです。留守中、この家に住んでください。 私が無事に帰京したら、その時は返してください。私が帰らなけ ればあなたに差し上げます」 と、出かけてしまいました。 果たして、この主人はそのまま音信が不通となり、田圃と屋敷は は若者の物になったのでした。 なんだかいけすかないなぁ・・・。 でも、この男、蜜柑をあげた女性に、お礼をもらいに行かなかっ たんですねぇ。 しかも、物語には、「田圃が思った以上によく実る田圃で、裕福 に暮らした」ということは書いてあっても、美人の女房をもらっ た、などという説明はありません。 この男。 観音様から、富はなんとか恵んでもらったけれども、女運までは 頂けなかったようで。 少し胸のつかえが取れるってもんです。