さえずりの様子
伝 説:ヒッヒッ、カッカッという音が林から聞こえたら、それはきっと、ジョ ウビタキの地鳴きです。 カッカッというその音は、石灰を打ち合わせるような無機質な音。 そのため、「火を焚く鳥」「火を叩く鳥」という名前がつきました。 ひたきは「火焚き」「火叩き」であったのです。 また一説ではひたきは「火焼き」だとも言います。 その鮮やかな、広大な野原を燃やす炎のようなお腹の色が名前の由来な のだとか。 彼らはなわばり意識が強く、いつも一羽だけ、木の枝などにとまって空 を見上げています。 夕焼け空の下にいてもさらに目立つその赤い身は、なにか孤独にさえ見 えるのです。 小さな体に、紅蓮の情熱を詰め込んで、その丸い目は何を見詰めるので しょう。 春が近くなると、ジョウビタキ雄のさえずりを聞くことができます。 その雄々しい姿にふさわしくもない、かぼそいくちばしで奏でる、優し くて繊細なその恋歌は、一体誰に捧げるものなのか。 ちなみに、ジョウビタキの「尉」はおじいさんを意味するそうです。 頭の白い部分が、白髪に見えたのかもしれません。 しかし、「尉」には、火のし……アイロンの意味もあります。 この鳥と炎とは、どこかで密接につながっているのかもしれません。 蛇 足:体長10センチほどの小さな鳥ですが、彼らは春と秋の二回、過酷な 長旅をします。 シベリアから日本まで、日本からシベリアまで。 彼らはどれほど飛び続けるのでしょう。 旅立った鳥のうち、どれほどの割合で目的地にたどり着けるのか、 私は知りません。 でも彼らは、時期がくれば、なんのためらいもなく飛び立ちます。 死の恐怖も、彼らの翼を捉えることはできないのです。 いえ、きっと、彼らの果敢なハートには、死の恐怖などというつま らないものは、存在してはいないのでしょう。 ジョウビタキは人をあまり恐れず、こちらが脅かすようなことをし なければ、つい2〜3メートルほどしか離れていない枝にとまり、自 分よりもずっと大きな動物を観察していたりします。 その黒くて丸い目を見ていると、なぜか無償に悲しくなるのです。 彼らの一生は、人間のそれと比べればちっぽけに感じるほど短い。 だけど私たちには、彼らがさりげなく燃やすほどの情熱さえ持ち得 るのでしょうか。 私にとっては、非常に思い入れの深い鳥です。 参考文献等: 情報提供者: