伝 説:廣介童話は、「泣いた赤鬼」を読んでから、どうも苦手だったのですが、 見直してみようという気になったきっかけが、「むくどりのゆめ」でし た。 むくどりの父子は広い野原の真ん中に立つ、栗の木の洞に住んでいまし た。 お父さんむくどりは、ススキの穂を巣に運び、布団にしてくれましたか ら、むくどりの子は冬になってもちっとも寒いと思いません。 けれども、お母さんのいないことだけがさびしく思われるのでした。 むくどりの子は、お父さんにいつも尋ねます。 「お母さんはまだ帰ってこないの?」 本当は、母むくどりはとおに亡くなっていたのですが、むくどりの子は、 遠くに出掛けているのだとばかり信じていたのです。 ある夜、むくどりの子は物音で目が覚めました。 カサコソ、カサコソ その不思議な音は、何か母を思い出させる、慕わしさを秘め、子むくど りの心に迫ってくるのでした。 次の朝、むくどりの子が目を覚まして確認したところ、それは大きな木 の葉がたてていた音だと知れます。 でも、その枯れ葉は、強い風に吹かれればたやすく落ちてしまうでしょ う。 むくどりの子は巣の中にあった一本の毛を抜くと、その葉と枝を頑丈に 縛り付けました。 「こうしておけば、飛ばされることはないだろう」 その日の夜、むくどりの子は、自分のしたことをお父さんに話しました。 父むくどりは黙って聞いていましたが、すべての話が終わると目を開け、 首をまげまげ目をむけて、つくづくと子どものむくどりをみまわしたの でした。 その夜のこと、白い鳥が巣の中に入ってきました。 優しい二つの目で、昼間父鳥がやったように、つくづくとむくどりの子 を眺めて立っていました。 「お母さん!」 目を覚ましたむくどりの子は羽根を鳴らして飛び立ったのですけれども、 白い鳥はふっと消えてしまったのです。 次の朝、巣をでてみると、くだんの葉っぱには雪がうっすらと積もり、 白くなっていました。 むくどりの子は、「それでは昨日のお母さんはこの葉っぱだったのかもし れない」と思いました。 むくどりの子は、羽根で叩いて、葉に積もった雪を払い落してあげました。 蛇 足:なんの事件も起こりません。 なんの感動的な挿話もありません。 でも、なんと美しいお話かと思います。 葉に積もった雪を羽根で落とすむくどりの子の、純な優しさに、なぜか泣 けて仕方がありません。 そして、つくづくと子どもを見つめる父むくどりに、そして多分天国にい る母むくどりに、共感と呼ぶとあまりにも薄っぺらな、情を感じるのです。 むくどりは、群れで人里近くに生活するためか、人間にあまり好かれてい ないようです。 でもこの物語を思い出すと……どうしても嫌いにはなれないのです。 参考文献等:「むくどりのゆめ」 浜田廣介 情報提供者: