川蟹(かわがに)

kani




  伝   説:ある日のこと。
        一匹の蟹が沢から迷い出て、往生していました。
        そこに現れたのは、長者の娘。
        優しい娘は蟹が困っているのを見ると、そっと手のひらに乗せ、沢に戻
        してやりました。

        しかし、そのあと、村を干ばつが襲いました。
        村の田圃は干上がり、この秋の収穫は見込めそうもありません。
        このままでは、村全体が飢えてしまうのは決定したかのような状態でし
        た。
        
        情け深い長者が、とても悩んでいると、現われたのは一匹の蛇。

       「娘を嫁にくれるならば、雨を降らせてもよい」

        水の神様である蛇の力ならば、雨を降らせることもできましょう。しか
        し、そのために、かわいい一人娘を嫁にやらねばならぬとは……。

        長者はとても悩みましたが、村全体が飢え死にするよりは、娘の命を差
        し出す方がマシだと考えました。
        優しい娘もまた、その考えに賛成でした。

       「わかった。それでは娘をやろう」

        長者が蛇に約束すると、蛇は満足そうにうなずきました。

       「それでは、今晩、娘を迎えにくるぞ」
 
        そう言って、姿を消すやいなや、さっそく、恵みの雨が降り、田圃をう
        るおしたのでした。

       「よかった」
        ほっとした長者と娘ですが、蛇の嫁になって、この先どうなるのか、と、
        途端に恐ろしくも感じたのです。

        その晩、娘が部屋で覚悟を決めて座っていると、

        ズリ…ズリ…。

        気味の悪い音が聞こえてきたではありませんか。

        蛇がやってきたのでしょう。

        娘がぶるぶる震えていると、今度は、

        カチャカチャカチャ!!

        なにやら小さな音が聞こえてきました。

        ドシン・バタン・ドシン!!

        そして、今度はそれが何かが暴れる大きな音に変化します。

        何がおきているのかわからないまま、娘が震えているうちに、朝の光が
        差してきました。

       「蛇は来なかったのかしら?」

        娘が不思議に思って外に出てみると、そこにあったのは、蛇の大きな死
        体。

        そして、蛇と闘って、共に命を落としたのでしょう。
        いつぞや助けた蟹の小さな骸もまた、そこに倒れ伏していたのでした。

       「恩返ししてくれたのね」

        感謝した娘は、蟹の亡骸を丁寧に葬ったのでした。  
 
  蛇   足:蟹満寺の縁起としても同じような話が残りますから、かなり有名な話だ
        と思います。

        しかし、蟹と蛇が戦うというモチーフは、どこから来てるんでしょうね?

        淡水に棲むかにと蛇って、仲が悪かったりするんでしょうか?
        蛇が蟹を狙うことはありそうですが、蟹が蛇を攻撃するようなことがあ
        るんでしょうか???

        いろいろと考えてしまう話です。

        ところで、この写真を撮影したのは、長崎ハウステンボスへ旅行したと
        きのこと。

        朝の散歩でJRハウステンボス駅まで歩いていくと、駅構内に、でかい蜘
        蛛!!!
        ……と思ったら、蟹でした(笑)

        そばに川はあるけど、小さな蟹の身で戻るのはちと大変じゃなかろうか、
        と、捕獲……しようとしたけど、素早いのなんの、捕まるもんじゃああ
        りませんでしたぜ、旦那。

        ってなわけで、旦那と挟み打ちにし、やっと捕獲。

        そばの川に戻したのでございます。

        ……が。

        水に足をつけると、

       「んぴゃぁ!」
        というように、すぐ戻ってくる。

       「ポチャ」
       「んぴゃぁ!」

        これを繰り返す。

        ……まさか、この川の水では、生きていけない種類の蟹?

        でも、そばに水場はないしさぁ……。

       「人が見てるから警戒してんのかも」
        と、とりあえずその場を離れ、少し行ったところで振り返ったところ、
        蟹はそこにはもういなかったんで、水に戻ったんだと思うんですが。


        ……いや〜ん、気になるわぁ(^^ゞ 

        てなことで、只今、長崎市の自然環境課に問い合わせを入れておりま
        す。

        これでもし、

       「この蟹は、JRハウステンボス駅前を流れる川では生きていけません」

        てな回答が返ってきたら、すっげぇ凹む(T_T)

        ですが、とりあえず、事後報告いたしますんで、よろしくm(__)m 

                 *** 報 告 ***

        長崎市から丁寧な回答をいただきました。以下メールを転記↓↓↓

        和名:アカテガニ(若い個体)
        アカテガニについて
        ・海岸の波打ち際付近や汽水域から河口から数km上流までの淡水域や、
         その周辺の陸上で見ることが出来ます。
        ・海(早岐瀬戸)に放しても、しばらくしたら陸上に上がってきます。
        ・海中でもある程度は平気ですので、海岸に放しても全然問題ないです。
        ・長崎では普通にみかけるカニです。

        
        (追伸)
        JRハウステンボス駅の前は、河川のようですが、実は海です。
        早岐瀬戸(はいきせと)は、大村湾と佐世保湾、そして東シナ海をつなぐ、
        二つの狭い海峡のうちの一つです。(もう一つは針尾瀬戸)
        全長が約11qであるのに対して、幅が最大で約200mと非常に細長いために、
        川と誤解されるような海域です。

        つまり……。
        あの川(実は海)に棲む蟹じゃなかったということですね(^^ゞ
        ただ、「海岸に放しても全然問題ないです」という言葉が救い??
        
        ちゃんと生息域に戻ってればいいんですが……不安だわ(^^ゞ
  参考文献等:
  情報提供者:       



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