鯱(しゃち)
伝 説:トマリ・コロ・カムイ(入江の神・シャチのこと)がある日、居眠りを
していると、妙な夢を見ました。
沖の方に見知らぬ外国の船が停まり、その上で、
「俺たちは飢餓の神だ。これからあの村へ行って、侵略してやる」
と男たちが話しているのです。
いやな胸騒ぎがして、渚を見ると、見たこともない小屋が建ち、その中
で男たちが夢の通りに言い争いをしているのが見えました。
トマリ・コロ・カムイはそれを聞くとむちゃくちゃに腹がたって、神棚
に乗って渚へ突進し、小屋をぶっ壊しました。
すると、意地悪な「しめ」が一斉に飛び立ったのです。
それを見たトマリ・コロ・カムイは安心してまた自分の住み家に戻った
のでした。
蛇 足:西洋では、シャチは悪魔の使いのように言われていたようですが、アイヌ
や、その他の海洋民族たちは、シャチが大きな体に似合わずおとなしく、
頭の良いことを知っていたようです。
特にアイヌでは、入江の神として愛されていました。
シャチは、クジラやイルカの仲間ですが、時には自分よりもずっと大きな
鯨も狩るため、英語では、「KILLER WHALE」つまり、「クジラ殺し」と
呼ばれています。
また、学名の「Orcinus orca」は、「冥界の鯨」という意味。
やはり西洋ではあまりよいイメージがなかったのですね。
でも、最近では、シャチは世界的に「愛される海洋動物」と見做されるよ
うになってきています。
やはり、海洋民族の方が、海の生き物には詳しかったのですね。
参考文献等:「アイヌの昔話」ちくま学芸文庫 稲田浩二著
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