benkyou

門僕神社 秋祭り




2007年10月7日午前8時。
快晴

奈良県曽爾村において、秋祭りが催行されました。
とくに、獅子舞は、奈良県無形文化財に指定されている、
有名なお祭りです。

昨年の秋、お祭りの前日にこの村を訪ねて、
お祭りの準備を見学させていただいたのですが、
村人総勢でお祭りに参加している感じ。

その上、よそから来た私のために、
せっかくこしらえてしまい込んだ御供えを取り出してくださる親切さ。
神輿の前で奉納されていた獅子舞の見事さに、

「来年は、絶対お祭り本番に来ないとな」

と決心していたのでありました。


お祭りの開始は8時ですが、なにしろ「奥曽爾」と表現される場所。
電車で見学に行かれる方は、前日に吉野近辺で宿泊される方が良いかもしれません。

私たち夫婦は朝六時に家を出発。
早朝ゆえ渋滞もなく時間通りに到着しました。

さすが、「無形文化財」だけあって、
役場などに仮設された駐車場はすでに半分ぐらい埋まっています。

このお祭りの見どころは二つ。
一つは、言わずと知れた、「獅子舞」ですが、
実は、神事自体も、ひじょうに珍しいものです。

ご祭神に奉納されるものは、
米・神酒・野菜などのよく見られるものだけではありません。
「犬の舌」と呼ばれる細長い餅は、この神社独特のものでしょう。

harae

この写真のものは、白い餅ですが、中には黒豆を埋め込んだものもありました。
氏子さんのお話によると、
この「犬の舌」は、七つ・五つ・三つと並べられているそうです。

子どもが七歳・五歳・三歳のときに、厄払いのお祝をすることや、
「七五三縄」と書いて、「しめなわ」と読むことなど。
「七」「五」「三」という数字には、
何かパワーがあると考えられていたのかもしれません。

さて、もう一つ、非常に興味深い御供えがあります。

それが、「頭甲(すこ)餅」です。

芋茎(ずいき)を束にして、そこに柿の実と丸餅をらせん模様に刺してあります。
そして、てっぺんには大きな赤い鶏頭の花。
これは、乙女の姿を模したもの。
一説では、「人身御供のなごり」とも言われます。

去年、「今井地区」の頭甲餅は見せていただいたのですが、
社務所にずらりと並んだところは壮観。

harae

美しさを競い合う乙女たちのようですね(*^_^*)

さて、神事の開始と同時に、境内では獅子舞の奉納が始まります。

曽爾村には八つの字があり、
それぞれが頭甲餅を謹製なさるとか。(変な敬語と謙譲語だけど)
そして、三つの字には、「奉舞会」が存在し、
それぞれが、獅子舞を奉納されます。

その三つの字とは、「今井」「伊賀見」「長野」
決してライバル同士という風ではなく、「親戚」という感じに見えるのは、
この村の、和気あいあいとした雰囲気がそうさせるのでしょう。

まずは、神前にて、「神前の舞」。

harae

もちろん、「神前」とは言っても、拝殿の前ですが。
たぶん、
「これから境内にて獅子舞を奉納いたします」
という報告なのでしょう。

これは、すべての奉舞会が順番に。
時間は五分弱でした。

それが終わると、次は「悪魔払い」の舞です。

harae

これは、荒舞と、剣舞を組み合わせたものだそうで、
剣を手に、激しく、厳しく舞われます。

個人的には、この舞が一番好きなんですが、残念ながら短い。
十五分程度だったでしょうか。
もっと見てたいよぉ(T_T)

何が素敵かというと、剣の冷たさと、獅子頭の熱さが、
ダン・ダン・ドスンと重層的に、心を打つからなんです。

獅子頭は、木彫りの面。
表情のあろうはずがありません。

しかし、剣を構え、正面をにらみ据える表情のひたむきなこと。
透明な空間を切っ裂いて迫る躍動感と、真剣さ。
髪を振り乱して剣を大きく振り払い、天を見上げる姿の切なさ。

天界の生き物とされる獅子の、
しどけないとも表現したくなるほど豊かな、
そして露な表情が、
心の芯にビシビシと何かを訴えかけてきてならないんです。

さて、この「悪魔払い」も、三つの奉舞会によって舞われるのですが、
その間に、社務所から拝殿へと、さまざまなお供えが運ばれています。
社務所から拝殿につながる渡り廊下にずらりと氏子さんが並び、
順ぐりに手渡しして行きます。

harae

みなさん、口に葉を咥えておられるのが見えるでしょうか?
この葉っぱは、「榊」。
文字通り、「神の木」です。

無言を守るための、古来続く作法でしょうか?

さて、境内で悪魔払いの舞が終わりに近づいたころ、
社務所ではちょっとした騒動が始まります。
いよいよこのお祭りの御供のトリを飾る、「頭甲餅」が奉納されるのです。

この御供えだけは、手渡し方式ではなく、
各字の代表者が、肩の上にかかえて、運びます。
各頭甲餅の前には、黒地に日の丸の扇子を持ったご老人が先導。

harae

黒地なのは、やはり、人身御供の乙女を悲しむ気持ちからでしょうか。

さて、この日、一人の氏子さんが、私にほとんどつきっきりで
いろいろな説明をしてくださりました。

「頭甲餅は乙女の形で、人身御供の名残といわれること」
「ただし、猿神だか、蛇神だか、誰に供えるための生きにえかはわからないこと」
「芯に芋茎を使うのは、小芋の生命力にあやかるためではないかということ」
「犬の舌が何を意味するのかはわからないこと、ただ古くからそう呼ばれること」
などなど。

わかっていないことも多いようで、
だけど、村の人たちは、意味がわからなくても、古式に則って、
毎年心をこめてお祭りを迎えられるのですね。

頭甲餅は、拝殿の横からではなく、正面から運びこまれます。

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そして、本当の最後に、御幣が。
これもまた、黒地日の丸の扇子が先導です。

harae


神事はこの後、
「祝詞奏上」
「玉ぐし奉奠」
と続き、十時ごろには終了しました。

神事の見学なので、ここでレポートを終わってもよいのですが(^^ゞ
なにしろ、「無形文化財」でもありますから、
獅子舞について、最後までレポートしたいと思います(#^.^#)

ということで、境内に眼を転じましょう。

harae


この日、悪魔払いの舞が終わると、
「新神楽」「参神楽」という正統的な神楽と、
村の娯楽ともいえる、「獅子踊り」
そして、アクロバティックな「接ぎ獅子」が、
順序良く奉納されました。

「新神楽」「参神楽」は、たぶん、かなり正統派の踊りなのでしょう。
金刺繍の袴に白足袋、桐の下駄で舞われます。
手には御幣。
上半身もきっちりした身なりをなさってるかもしれませんが、
獅子頭と布に隠れて観えないので、わかりません(笑)

harae


静かな所作、
軽い足取り、
熟練の舞手さんであると、素人目にもわかります。
演舞時間は、十分から二十分ほど。

対して、「獅子踊り」は、娯楽的要素が強いのでしょう。
舞手の数も多く、
獅子=天界の生き物
天狗=魔界の生き物
道化=村人たちが十名余り
登場します。

ストーリーは、とても単純です。
獅子が遊び疲れて眠ってしまうと、
天狗がそれを見て、起こしにかかります。
村人たちもその真似をして起こそうとします。
獅子は目を覚まし、天狗と対峙。
争っているのか、それとも技の見せ合いを楽しんでいるのか。
最後は、村人も入ってみんなで楽しく遊び、演技が終わります。

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獅子が眠っている間、また天狗と獅子が競っている間、
道化たちは何をしても構わないようです。

氏子さんによると、
「三十年ほど前までは、本当に無礼講でね。
道化は娘さんを触りに行ったりしてもよかったんやで。
娘さんたちも、たくさんに触られたほうが『人気ある』言うてね。
喜んで触られてたんやで」
とのこと。

歌垣なんかもそうですけど……。
祭りとは、男女の性と密接につながっていたものなのだと、
今更ながら気づいたりします。

今は、さすがにそういうことはなく、
道化に担ぎあげられた小さな子どもが、
踊りに飛び入り参加させられていました(笑)

大泣きする子やら、ノリノリの子やら、
ほんとうに賑やか。
きっと、娯楽の少なかった昔は、
この踊りこそは、村人全員参加の楽しいものだったのでしょうね。
これは、すべての演目の中で、際立って上演時間が長く、
40分ほどもあったように思います。

最後から二番目の演目は、「接ぎ獅子」
名前から想像できるかと思いますが、
舞手は、薄化粧をした男性の肩の上に立って演技をします。
さすがに重い舞手では、下の男性が大変……ということか、
舞手は、まだ少年のようです。

harae

それでも、不安定な肩の上で微動だにせず、
美しい姿勢を保ちながらも、きれいな所作を見せるところは天晴。
きっと成長したら、素晴らしい獅子頭のまわし手になるんでしょうね。
時間にして20分ほどですが、緊張感のためか、あっという間と思えます。

さて、この獅子舞の奉納。
今では、
「発表会」
と言われています(笑)

謙虚というか、ざっくばらんすぎるというか(^^ゞ

これだけの熟練と、
迫力なのに、まだ、
「奉納会」
とは言わずに、
「発表会」
なんて言っちゃうところが、この村の気さくさを如実に表していると思うのです。

この日、四時間にかけて、まったく初見の私にナビをしてくださった氏子さんは、
祭りが終わって気づいたら、どこかに行ってしまわれて、見つけられませんでした(^^ゞ

お礼も言えなかった……(>_<)

でも、この、サービス精神旺盛な村の人たちにとって、
遠くから来た人に親切にするということは、
体に染みついたものであるように感じます。

この神社の秋祭りは、
「人身御供のなごりを残している」
ともされています。

だけど、この暖かい村を守る神様のこと。

神に捧げられた乙女たちは、決して不幸になるのではなく、
きっと大切にされているように思えてなりません。

harae

いつもの閑静な境内が、このお祭りの日は超満員。
賑やかになります。
毎年、このお祭りは、体育の日直前の日曜日に開催。
2008年は10月12日に開催されます。

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