日本酒: 「篠峯 上々」
 肴 : 「小子部スガルと雄略天皇」

kujira




  日本酒 :篠峯 上々
   種 類:山廃本醸造
   原料米:山田錦全量使用
   産 地:奈良県御所市大字櫛羅621
   醸造元:千代酒造株式会社
  日本神話:小子部スガルと雄略天皇
   原 典:日本書紀 古事記 日本霊異記
  あれこれ:このお酒は、本醸造タイプ。
       醸造アルコールが添加されたお酒です。

       私は、この醸造アルコールの匂いが苦手・・・というか、これが添加されてい
       たら、どれもこれも同じ風味になっちゃうような気がします。

       なのになんで、この本醸造タイプの日本酒を買ったか。
       ・・・お燗が呑みたかったんですわ。
       お燗するのに純米酒はちともったいないんでないかい?
       値段も格安(大手酒造メーカーの一升瓶より安い)で、多分それでも、大手酒
       造メーカーの純米吟醸よりもおいしいくらいんじゃないか・・・と、試しに購
       入してみたんでした。

       冷やで呑むと、やはり醸造アルコールの癖がはっきりわかってしまいます。
       お燗にすると、まぁおいしいんですけど、別に感動はない・・・ということで、
       ふと思いついて、冬瓜を煮込む時に入れてみたんですね。
       料理酒代わりというよりは、味醂代わりのつもりでした。

       出来上がった冬瓜を食べてびっくり!
       むっちゃ甘い!うまい!
       日本酒の柔らか〜い甘さが、冷たく冷やした冬瓜の葛餡かけにぴったり。

       他にもシシトウを煮込んでみたり、キンピラ牛蒡を煮込むのに使ったりしてみ
       ましたが、どれもこれも、最高の仕上がりです。

       つまり、この日本酒は、主役よりも脇役が似合う・・・。
       高級じゃないけど、素朴で風味があって、美味。

       そんなわけで思い出したのが、小子部スガルと雄略天皇なのです。

       そもそもどんな優秀な人物でも、その上司に力量がなければ、その才能は殺さ
       てしまうことがあるものです。
       反対に、「この上司あってこそ」という歴史上の著名な人物もおられますよね。
       例えば、紀州公徳川吉宗の時代に活躍した、大岡越前なんかもその一人でしょ
       う。

       そして、古代史を見てみると・・・。
       いるんですよ。
       い〜いコンビが。

       雄略天皇は、日本書紀に「短気」「残虐」と表現されるような「怖い」天皇で
       ありました。

       しかし、その反面、姉さん女房である若日下王にその短気を諌められると、
      「あなたは良いことを言ってくれる」
       と感謝し、素直に反省するような、心のまっすぐさをも持ち合わせる人物でし
       た。

       実際、彼の行った「残虐」とされる行為は、まっすぐ過ぎるゆえの過ちである
       ことが多いのでした。
       落ち着いている時の天皇は、残虐どころか慈悲深くユーモアのある方でありま
       した。

       短気ゆえのエピソードの中でも、こんな面白い話しがあります。

       工匠の猪名部真根は、毎日、石を台にして斧で樹を削っていました。
       下手にしたら石で斧が欠けちゃうところですが、彼は、全く斧を損じさせない。

       それを見た雄略天皇は「失敗することはないのか?」と尋ねます。
       恐ろしい天皇にこういうことを言われたら、普通は、
      「はっ!恐れながら・・・」
       という反応になろうと思うのですが、真根は、ちょっと良い気になっていたの
       かもしれません。

      「失敗なんかしませんね。ふんっ!」
       なんて答えちちゃうんですね。浅墓にも。

       雄略天皇がムカつかないはずがありましょうか?いやない。
       ということで、ちょっとしたいたずらを思いつきました。

       采女達を集めて、彼女達を褌一丁にします。
       つまり、上半身はすっぽんぽん。
       その姿のまま、相撲大会を開いちゃったんですね。

       Oh,no!!
       ぴちぴちのぷるぷるでんがな!!

       てなわけで、真根は手をすべらして、斧をガリッ!!

       子供のケンカと変わりゃしませんな。
       しかし、これで終わらないのが、雄略天皇です。

      「嘘をついたな。処刑じゃ処刑じゃ、処刑じゃ〜〜!!!」

       真面目に真根を処刑しようとするんですから、シャレならん。
       結局、真根の同僚がとりなして、ことなきを得たんですけどね。

       つまり、雄略天皇は他人のとりなしには耳を貸す人だったんでしょう。
       が、他人がいろいろととりなさずにはいられないほど、短気で一途なところが
       あった・・・と。

       そういうわけじゃないでしょうか。

       そんな天皇の部下の中に、失敗ばっかりしている大男がおりました。

       彼の名は、小子部のスガル。

       彼の名からして、その失敗を物語るものでした。

       天皇は、「養蚕をしたいから蚕(こ)を集めて参れ」と命じたのです。
       しかし、スガルが集めてきたのは「子」でした。

       子供をたくさん集めてどうするつもりなのか、なんてことを考えるようなスガ
       ルじゃないんです。

       とにかく、「天皇さまがおっしゃったんだから、言われた通りやるべぇ」と、
       全力を尽くしてしまうのが、この大男なのでした。

       そして、天皇に、
      「ちゃうがな!」
       と突っ込まれ、
      「その子供らはお前が育てなはれ。今日からお前の名前は『小子部』としたろ。
       チャンチャン!」
       とオチまでつけられたのですが、決して、
      「あんたとはやってられんわ!!」
       とは言われなかったんでした。

       彼の最大の失敗は、天皇と皇后の睦言の最中に闖入したことでした。
       この時ばかりは雄略天皇も慌ててしまい、

      「雷を捕まえてこい!」
       などと意味不明の命令をくだしてしまうんですが、やっぱりこの大男は深く考
       えませんでした。

      「天皇さまがおっしゃったんやし、やってみるべぇ」
       と、小高い丘の上に登り、
      「お〜い、雷よ〜、捕まえたるから、こっちゃこ〜い」
       と叫んだ。

       そんなことで雷様が捕まえられるなら苦労はないってなもんでしょうが、何を
       思ったのでしょうか・・・。

       ことによったら、
      「なんでやねん!」
       と突っ込もうとして失敗したということかもしれませんが・・・。
       雷様がビカビカ光りながらスガルの足元に落ちてきたのです。

       まさか本当に雷様が捕まるとは思っていなかった天皇ですが、彼もまた豪胆な
       タチでした。
       恐ろしげな雷様を素手で触ろうとするんですから、並の神経じゃありません。

       しかし・・・。
       ガラガラガラ〜〜〜ッ!!
       天皇が触ろうとすると、それはビカビカゴロゴロ光ります。

       どうやら、天皇の手が汚れていたのが雷様の気に食わなかったらしいんですが、
       それにしても、スガルにはおめおめと捕まるくせに、天皇には触らせもしない
       とは、なかなか根性のある雷様じゃないでしょうか。

       かくして雷様は再び天へと返されたのでありますが・・・。
       この恨みを忘れることはありませんでした。

       時が過ぎて、スガルが亡くなった時、天皇は雷丘に彼の墓標を立てました。
       そこにはこう書いてあったのです。
      「雷を捕らえたスガルの墓」

       面白くないのは雷様。
       この墓を壊すため、その上に飛び降りよう・・・と・・・したのですが・・・。

       なんてことでしょう。雷電により墓標が裂け、雷様はそこに挟まれてしまった
       のです。

      「おやおや」
       天皇は朗らかにお笑いになりました。

       雷を逃がしてやった後、スガルの墓標は新たに立て直されました。
       そして、そこにはこう書いてあったんですね。
      「生きても死んでも雷を捕らえたスガルの墓」

       雄略天皇は、本当にスガルを愛したのでしょう。
       スガルもまた、雄略天皇の下で伸び伸びと「才能」を花開かせました。

       これを友情と呼んでよいのかどうかは私にはわかりません。

       しかし、
       度胸と智恵に優れながらも短慮な天皇。
       度胸はあるが単純、しかし素朴でこだわらない性格のスガル。

       彼らの個性は、お互いあってこそ、ことさらに輝いたのではないかと思います。  

      「聖帝」揃いの日本書紀代々天皇の中にあって、雄略天皇は非常に「人間らしい」
       天皇でありました。
       そして、そのことを強調するかのように、スガルは存在しました。

       スガルの無邪気さは、雄略天皇の懐の深さによって際立ちました。

       それを友情と呼ばなくても、私は彼らをこう呼びます。

      「ベストカップル」
       と。

       理由もなく惹かれあう魂。
       そんな二人ではないかと思います。

       あなたのベストパートナーは誰ですか?
       秋の夜、このお酒を少しだけ温めて、お銚子を傾けながら呑んでみるのもいい
       かもしれません。  

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