日本酒: 「櫛羅 荒走りにごり」
 肴 : 「木花開耶姫と瓊々杵尊」

kujira




  日本酒 :櫛羅 荒走りにごり
   種 類:純米吟醸生原酒
   原料米:櫛羅産山田錦全量使用
   産 地:奈良県御所市大字櫛羅621
   醸造元:千代酒造株式会社
  日本神話:木花開耶姫と瓊々杵尊
   原 典:日本書紀 古事記
  あれこれ:このお酒は、濁り原酒ですので、開栓の時、注意が必要です。
       発泡が強いので、下手に開けると半分以上が吹き出てしまうのです。

       少し開けて、泡が吹き出てきたら、閉める。
       泡が収まったら、また少し開ける。
       これを数回繰り返してください。
       ちと手間がかかりますが、上品な辛口の味に、ぴりりとした炭酸が心地よく、
       ウキウキした気分にさせてくれるお酒です。
       あんまり「しんみり」とは飲めないお酒かもしれません。

       私は、濁り酒というと、なぜか木花開耶姫が浮かぶんです。
       それは、「色白なイメージ」ということもありますが、日本書紀一書(第三)
       の中で、姫が皇子を出産した後、天甜酒を醸したというエピソードが出てくる
       からかもしれません。

       しかも、この「櫛羅 荒走りにごり」のぴりっとした感触は、本当に、開耶姫
       にぴったりです。

       と言いますのも、開耶姫は、かな〜り、気のきつい、一本筋の通った女性であ
       るからです。

       木花開耶姫といえば、絶世の美女として知られていますよね。
       それは、天から降臨してきた瓊々杵尊が一目惚れをし、即座に求婚したという
       ことからもうかがい知れます。

       ただ、この結婚には、ケチがつきます。
       開耶姫の父親である大山祇神は、姉の岩長姫も一緒に輿入れさせるのですが、
       瓊々杵尊は、「岩長姫は醜い」と言って、姉だけ親元へ帰してしまうのです。

       そりゃ、父親は怒りますわな。
      「岩を返して花だけを取るつもりなら、あなたとあなたの子孫は花のようにすぐ
       に散ってしまうでしょう」
       と・・・強烈な呪詛の言葉を浴びせられてしまいます。

       瓊々杵尊にとっては自分で播いた種ですが、子孫は大迷惑っ!!

       しかも、瓊々杵尊の小人物ぶりは、これだけに留まりゃぁしません。

       開耶姫が一晩の「コト」で妊娠してしまったと知るや、
      「おまえ、浮気してるだろ」
       と決め付ける。

       当然、姫は大憤慨。
       産屋に火を放ち、
      「もし、あなたの子供でなければ、私も子供も死ぬでしょうよ。でも、もし無事
       生まれたら、その時は、目に物を見せてくれるわっ!」
       と、本当にそこで出産してしまうんです。
       しかも、姫も子供も無事。

       その時、瓊々杵尊は言い訳するばかり。
      「いや、僕は、君のことを信頼していたさ。でもさ、皆が疑うと思ったからさ。
       僕も疑ってみせたけど、本当は信じてたんだってば。本当だよ」 

      「本番に強い人」と「本番に弱い人」がありますよね。
      「勝負強い人」と「勝負弱い人」というのもあります。
      「華がある人」と「華がない人」という言い方もできるかな。

       女の目から見ると、
       開耶姫は、本番に強く勝負強く華があり、
       瓊々杵尊は、本番に弱く勝負弱く華がない。

       瓊々杵尊は悪い人じゃないのかもしれないけれど、なんとなく、求心力がない
       タイプに思えます。
       だって、こんなリーダーだったらいやじゃん。

       本当のところ、瓊々杵尊が姫のことを疑っていたのか、それとも信じていたけ
       れど部下の手前疑ってみせたのか。
       それはわかりません。

       が、どちらにしろ、身重の妻に対して、「浮気したに違いない」などというセ
       リフを叩き付けたことは、人として、あまり品の良いことだとは思えません。

       でもまぁ、理解できないことはありません。
       人の良い夫と美しい妻・・・という組み合わせの小説はいくつかありますが、
       大概の場合、妻は浮気してたりしますからねぇ(笑)

       例えば、フローベルの「ボヴァリー夫人」という小説があります。
       エマ=ボヴァリーが愛人・ロドルフとの恋と生活に破れ、毒を呷った後、夫で
       あるシャルル=ボヴァリーは、妻の浮気相手である、ロドルフに対し、
      「私はあなたを許します」
       なんて言ってしまったりしてます。

       この、人の良いシャルルは、エマが自殺するまで、エマが浮気していたこと
       に気付こうともしなかったわけですから、許すもくそもないんじゃないか、
       とも思うんですけどね。

       妻に興味を示さなかった夫が、妻の浮気自体を責めるのはわかるとしても、妻
       の浮気相手を責められるんかいなと(笑)

       まぁ、とりあえず、人の良い男が、美人の妻を持つ・・・という話は、その後
      「妻の浮気」という展開を見せるパターンが多い。

       ですから、瓊々杵尊が開耶姫を疑ったのは、開耶姫が自分には勿体無い妻だ、
       という自覚があったのかもしれません。
       そう考えると、瓊々杵尊に同情できなくもないかも??

       しかし・・・私は、愛はこうで、恋はそう、というような論議はナンセンスだ
       とは思っているのですが・・・敢えて、気取った言い方をすれば、

       相手の瞳の中を見詰め続けにゃ愛することもできまいに、恋すれば恋するほど
       一人よがりになる不思議さよ。

       と、思わずにいられません。
       なぜか人は恋に夢中になればなるほど、独りよがりになり、その結果、他人の
       目から見れば、滑稽極まりない行動をとってしまいがちです。

       私自身が、好きだった相手に対し、独りよがりに振舞った例は、山ほどありま
       すが、あり過ぎて思い出せないので、ここでは触れません(笑)

       かといって、昔の恋人の滑稽な振る舞いというのをここであげつらうのも、そ
       れこそ品がないので、罪のなさそうなところを、一つだけ例をあげると・・・。

       結婚式の3日前、昔の恋人とバッタリ出会ったんです。
       電車を降りようとして扉の前に立つ私。
       開く扉。
       扉の向こうには、昔の恋人。
       まるでドラマのようなシチュエーションですが、私は、終わった恋に対しては、
       全く未練を持てない人間なので(だって、いやになったから別れたんだし)、
       ドキッも、ズキッもせず、

      「久し振り〜、3日後、私の結婚式やねん!」
       と話し掛けたわけですね。
       彼は、
      「そうか〜、おめでとう〜」
       と返して、そのまま私は改札へ。彼は電車に乗り込んだわけですが、問題は、
       その2日くらい後。

       封書が届きました。
      「今後、街で出会っても、お互いに知らないふりをしよう。それが結婚する君へ
       の最高のプレゼントだ。君はこれから旦那さんだけを見詰めて欲しい」
       という内容の、手紙でした。

       ・・・・・いや〜〜〜〜〜。
       幸せな人だなぁ・・・と思いました(笑)

       それを見た瞬間は、その手紙をとっておいてネタにしたろか、とも思ったので
       すが(^^ゞ
       それはあまりにも悪趣味だ、と考えなおし、細かくちぎって捨てました。

       普段ならば、びりびりっとちぎってぽいっと捨ててしまう私です。

       だけど、その時はなぜか執拗に手紙をちぎり続けてしまいました。
       何か、古い歌を口ずさんでいたような気もします。
       ふと現実に戻ると、目の前には、1センチ四方もないほどの小さな紙くずの山
       が出来ていました。

       それを見た時、なぜか、
      「未練だねぃ」
       と、つぶやいてしまった・・・なんてことは、今はまだ恥ずかしくて、口に出
       して、人に話すことはできません。

       こんな昔話も、いつかは、恥ずかしがることなく話せるようになるんでしょう。
       その時、このお酒を呑みたい。

       このお酒は、そんな、どこか乾いた陽気さのあるお酒です。

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