日本酒: 「梅乃宿 出品品 斗瓶囲い」
 肴 : 「活目入彦王と狭穂姫」

tobinkakoi




  日本酒 :梅乃宿 出品品 斗瓶囲い
   種 類:大吟醸
   産 地:奈良県葛城市東室27
   醸造元:梅乃宿酒造株式会社
  日本神話:活目入彦王と狭穂姫
   原 典:日本書紀 古事記
  あれこれ:昔、
      「無償の愛が欲しいの!」
       と言う同僚がいました。

       無償・・・言葉通りにとれば、償わなくてもよい愛。

       思わず、
      「ク・・・クリスチャンになれば?」
       と答えた私ですが、

      「あんたは旦那さんから無償の愛を受けてるからわからへんねん!」
       と言われたのでした(^^ゞ

       無償って・・・。
       普通にOLとして働きながら、最低限の家事はやってたし、旦那が望むこ
       とで自分のできることはなるべくやってるつもりなんだけど(゜.゜)

       そう言うと、
      「無償っていうのはそういうんじゃなく、自分の全てを受け入れて欲しいね
       ん。あんたは全てを受け入れてもろてるやん!」

       いや・・・。
       旦那だって、私が手のひらの上にうんこをひねり出して、
      「お召し上がりになって」
       と言ったら怒るだろうし、
       鼻くそほじって旦那の口の中に入れたりしたら、さぞかし喚くと思う・・・

       そう言ったら、しばらく口をきいてもらえませんでした(笑)

       少なくとも、旦那は私の怒りん坊なところがキライだと言ってますし、す
       べてを受け入れてるなんてことはないと思うんですけどね。

       だいたい、「君のすべてを受け入れたいんだ」なんて言われたら、耳を洗
       いたくなりますよね(^^ゞ
       そんな不自然な・・・。

       私が知っている、「すべてを受け入れてくれる無償の愛」は、寡聞ながら、
       二例だけです。

       一つは、高村光太郎の妻・智恵子に対する愛。

       初めて智恵子抄を読んだのは高校生の時。
       感想は・・・。
      「き・・・・きしょくわるぅ」
       でした。

       光太郎氏の詩からは、生身の智恵子さんが見えないんです。
       愛する対象を賛美しまくる場合、相対的に、賛美する側・男の情けなさ・
       人間臭さが表に出てくることもあるとは思うんですが、それもない。

       どうやら、光太郎氏は、智恵子さんの上に、すっぽりと、何かビニールで
       出来た人形をかぶせて、その人形をして「可愛い。可愛い」と言ってるん
       じゃないか。

       そんな気がして、寒気がしたのを覚えています。

       そんなわけで光太郎氏の智恵子さんへの愛は、茫洋として条件がないよう
       ではあるけれど、そこに生身の智恵子さんはない、と。

       個人的に、これは、「無償の愛」から排除したい。

       そうすると、もう一つの例だけ。

       冒頭にあげた、活目入彦王の狭穂姫に対する愛だけしか残りません。

       なにしろ、活目入彦王は、自分を殺そうとした狭穂姫を許すのです。

       狭穂姫は、仲の良い兄、狭穂彦にそそのかされて、夫である活目入彦王を
       殺そうとしました。

       しかし、結局、狭穂姫は夫を愛していたのでしょう。
       逡巡しているうちに、夫に気付かれてしまうんです。

      「あぁ、もうおしまいだ」

       普通はそれでお終いでしょう。

       でも、狭穂姫から理由を聞いた活目入彦王は、こう言うのです。

      「あなたは悪くないよ」

       その後、活目入彦王と狭穂彦の間はこじれ、戦となります。
       狭穂姫は・・・狭穂彦の許へと走りました。

       そして、心無い噂が広がります。

      「狭穂彦と狭穂姫はできている」

       心無い噂ではありますが、状況からすれば、そういわれても仕方がないよ
       うに思えます。
       なにしろ、狭穂姫は、狭穂彦の命令に従って活目入彦王を殺そうとし、今
       狭穂彦と活目入彦王が対立すれば、狭穂彦の側に付くのですから。

       しかし、活目入彦王は、それでもなお狭穂姫を助けようとするんです。

      「姫、私のところへ戻ってください」

       夫の執着を知った狭穂姫は一つの企みを持ちます。

       まず、腐れてもろくなった衣装と腕飾りを身につけます。
       そして、髪をすべて剃り落とし、その髪を頭の上に戴きました。

       自分を連れ戻しに来た、夫の使者が、
      「姫、王の許へお戻りください」
       と、腕を掴もうとすれば、腕輪が砕け落ち、
       衣服を引っ張ろうとすれば、衣装は裂ける。
       黒髪を掴もうとすれば・・・髪は宙に舞いました。

       死の演出としては、最上ものではないかと思います。

       自分を殺そうとした狭穂姫でさえ許そうとした活目入彦王です。
       こんな風に、自分の手から永遠に去った女性を、活目入彦王は生涯忘れま
       せんでした。

       なぜ、活目入彦王は、ここまで狭穂姫を許し、手元に置こうとしたのか。

       それには、政治的な理由もあったと思います。

       死に際してさえ、見事な演出をする狭穂姫の魅力もあったでしょう。
       ただ容色の美しさだけでなく、才智もある女性だったでしょうから。

       しかし、やはり、そこには、活目入彦王の情の厚さがあったと思えてなり
       ません。

       情の厚さというよりは、情の悲しさというべきでしょうか。

       活目入彦王は、何もかもを自分の背に負おうとしているようにさえ思えま
       す。

       高校時代、なんだか自分ばっかりが働いて、疲れているような気がしてい
       た時、BEATLESの「Hey!Jude」を聞きました。

      「Don't carry the world, up on your shoulder」

       この歌詞を聴いて、
      「あぁ、世界を自分の肩に背負っているのは・・・背負おうとしているのは、
       自分自身じゃないか」

       そう思って、自分から重荷を背負うのはやめました。
       それで随分楽になった
       私は、それほど力持ちではないので(笑)

       活目入彦王も、それほどの力持ちではなかったんじゃないかと思えます。
       でも、彼は、自分の細い肩に、すべてを、世界を背負おうと、最後まで踏
       ん張ったんではないかと思えます。

       狭穂姫の自殺の原因はなんだったのでしょう。

       狭穂彦と活目入彦王の間に挟まれて苦悶したから。
       狭穂彦に殉じた。
       記紀には、謀反人の妹として生きていくのは辛いから・・・と説明されて
       います。

       でも、私は、こう思うんです。

       狭穂姫は、活目入彦王のことを、本当は何よりもものすごく愛していたん
       ではないかと。

       狭穂姫は、活目入彦王の重荷を一つ、軽くしてあげたかったんではないか、
       と。

       狭穂姫の死によって、活目入彦王は喪失感を味わいましたが、一つの苦悩
       からは解放されました。

       そして、永遠の甘美な傷みを手に入れたのです。

       多分。
       愛とは、一言では言い表せないほど複雑で、重層で、ややこしいものなの
       でしょう。

       ただの「愛」でさえ、このややこしさ。
       ましてや、「無償の愛」をや。

       愛が・・・無償の愛が欲しければ、覚悟の程を。

       命よりも、愛を重視できなければ、きっと、それは求めてはいけないもの
       なんでしょうね。

       現実の「無償の愛」はそれほど重く、得がたいものです。

       でも、このお酒なら。
       梅乃宿 斗瓶囲は、限りなく優しい味です。
       とりあえず、手に入るお酒で、無限の許しを味わってみるのも、乙かもし
       れないですよ。

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